第10話 エルフと本棚のいちばん隅っこ


 エルフちゃんがうちのコンビニで働きだしてから、変なお客さんが目立つようになった。

 なんというか、可愛い店員を困らせることに生きがいを感じているおっさんたちだ。


 まあ、ぶっちゃけるとわざと成年向け雑誌をエルフちゃんにお会計させようとする困ったひとたちである。


 余裕があればぼくがヘルプに入ったりしてエルフちゃんの目に触れないようにしているんだけど、そうそう毎回うまくいくものではない。

 で、今日も運悪く、ぼくの手の空いていないときにエルフちゃんのもとにそういうお客さんがやって来た。


「いやあ、きみ、女の子がこういうの見ちゃいかんよ。うん、見ちゃいかん」


 自分でお会計させているくせに、なにを言っているんだろうね。


「え、えーっと……」


 エルフちゃんも困ったような顔で、やや顔をうつむけてレジを手早く済ませてしまった。

 その様子におっさんはとても満足したらしく、にやにや顔で店を出ていってしまった。


「ねえ、エルフちゃん。大丈夫?」


「なにがですか?」


「さっきのお客さん、面倒だったでしょ?」


「確かによくわからないことを言っていました」


 よくわからない?

 するとエルフちゃんが真面目な顔で聞いてきた。


「トシオ。あの本はいったいなんですか?」


「え? あれって、成年雑誌のこと?」


「はい。なぜこっちの男性は、女性の裸がのった雑誌をわざわざ買っていくのですか?」


 ……え、ええっと?


 これはボケなのかな。

 それともおっさんの腹いせにぼくを困らせて遊んでいるのかな。


「トシオさん、なんか誤解してるっす」


 すると休憩から戻ってきたオークくんが言った。


「どういうこと?」


「エルフ族って、基本、裸を見られることに抵抗がないんす」


「え、なんで!?」


「エルフはみんな何百年も生きるんで、羞恥心とか薄れちゃうらしいっす。水浴びとか見られても、あんまり慌てないって聞くっすね」


 うわー。なにそれ、聞きたくなかった!

 もっとこう、神秘的で知的なひとたちっていうイメージを返してよ!


 じゃ、じゃあ、もしかしてエルフちゃんも……?


「ち、違うもん! それは出産が終わって歳がいったひとたちだけやもん!」


 エルフちゃんが慌てて言い訳した。

 でも見慣れているのは否定しないんだなあ。


「じゃあ、さっきはどうしてあんなに恥ずかしそうな顔してたの?」


「えっと。……髪の毛が、ずれてたから」


 ぼくは慌てて店を飛び出した。

 おっさん、ちょっと待ってー!

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