第9話 エルフと激辛肉まん


 エルフちゃんは偏食家だ。

 いや、言うほどではないのだが、とにかく辛いものが大好きなのだ。


 曰く、エルフの里は基本的に質素な食事ばかりなので、こっちのほうのひたすら味の濃いものは初めて食べたのだそうだ。


 で、世間知らずなお嬢さんは、それらを大層お気に召したらしい。

 初めのころは自分の働くコンビニで買い物をするのを恥ずかしそうにしていたものだが、いまでは仕事上がりに必ずお菓子かパンかの辛いものを買っていく。


 で、最近の彼女がご執心なのが『激辛ハバネロ肉まん』だ。

 名前に恥じぬ激辛肉まんで、ぼくも一口食べてからもう触れないようにしている。


 しかしエルフちゃんはそれを額に汗しながら、まあ美味しそうに食べるのだ。

 そして今日もまた、バイト上りの二時間ほど前にエルフちゃんが意気込んで言ってきた。


「トシオ!」


「なに?」


「ハバネロ肉まんがありませんよ。補充したほうがいいのではありませんか!」


「そうだねえ……」


 このハバネロ肉まん。色物肉まんの宿命として、まったく売れないのだ。

 この補充もお客さんのためではない。

 エルフちゃんの「わたしが買っていくからつくっていいですか」というサインである。


 ちなみにマニュアルではスチーマーで一時間ほど蒸すんだけど、個人的には二時間くらい蒸したのが熱々で最高だと思っている。

 彼女もその辺はよくわかっているらしい。


「一個、いえ、二個入れておきましょう」


「いや、一個でいいよ」


「で、でも誰か買っていったら……」


「買わない、買わない。大丈夫だから」


 こんなもの買うひと、エルフちゃんしかいないよ。


 そしてエルフちゃんの仕事上がりの時間になった。

 ハバネロ肉まんも、いい感じに温まってきている。


 ぼくが最後のお客さんを会計していると、彼が肉まんのスチーマーを見た。


「あとタバコとー、ハバネロ肉まん」


「かしこまりま……え?」


 エルフちゃんがじっとぼくを見つめている。

 じーっと見つめている。


 ぼくは目を合わせないようにしながら、そっとハバネロ肉まんをお客さんのビニール袋に入れた。


 ……その後、エルフちゃんはしばらく口をきいてくれなかった。

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