第8話 エルフとてりやきバーガー


「ぎゃあ!」


 隣のレジから、エルフちゃんの乙女らしからぬ悲鳴が聞こえた。

 商品を詰めたビニール袋に茶色いソースがべったりとくっついている。中の商品もぐちゃぐちゃだ。

 よく見ると、チルドのてりやきハンバーガーが散乱していた。


「あー……」


「どどど、どうしようトシオ!」


「エルフちゃん、落ち着いて。お客さんへのごめんなさいが先だよ」


「あ、ご、ごめんなさい」


 慌てて同じ商品をかき集めてきて、その場は事なきを得た。

 そして、てりやきソースにまみれた商品を拭いていると、エルフちゃんがおずおずと言った。


「こ、これ、どうなるんですか?」


「うーん。一応、店長には言っておくけど……。もしかしたら買い取りになっちゃうかもねえ」


 うちはスタッフのミスで商品をダメにしてしまった場合、それはお給料から天引きされてしまうのだ。


「で、でもうち悪くないもん!」


 エルフちゃんは必死に言い訳を始めた。


「そうなの?」


「だって、レンジでチンしたら勝手に破れてたん!」


 あー。確かにパンとか温めると、よく弾けるよねえ。


「ハッハッハ。情けないな、エルフよ!」


 やけに鼻につく声が聞こえたと思ったら、商品の整理をしていたはずの姫騎士ちゃんがいつの間にか寄ってきていた。

 この子は本当に野次馬根性がすごくて、なにかトラブルがあるとすぐ嬉しそうにやってくるんだ。


「その程度もこなせんとは、まったく何か月やっているのだ」


「ま、まだ二週間やもん!」


「フッ。二週間でマスターできぬとはな。どれ、手本を見せてやろう!」


 そう言うと、姫騎士ちゃんはチルドハンバーガーを持ってきて、レンジで温め始めた。


「……ふむ。十五秒か」


 ゴウンゴウン。


 ――パンッ!


 レンジを開けると、それは見事に破れていた。


「な、なんだと!?」


 姫騎士ちゃんが悔しそうに膝をついた。


「うち、次うちやる!」


 次にエルフちゃんが持ってきて、同じようにチャレンジするも失敗。もともと負けず嫌いなふたりのせいで、レジカウンターの上はしぼんだハンバーガーだらけになった。


「これが最後の一個だな……」


 じー。

 エルフちゃんたちがじっとぼくを見つめる。ぼくはため息をつくと、それを受け取った。それをレンジに入れる前に両手で持つと――。


 ――バリッ。


「「いいの!?」」


 エルフちゃんたちの声がハモった。

 まあ、破れるもんはしょうがないからね。先に破っとけば、さっきみたいにこぼれ落ちる心配もないし。


 さて、このふたりに熟練の技を伝授したところで……。


 この山になったチルドバーガー、どうするつもりだろう。

 まさか、ぼくにも買えなんて言わないよね?

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