第7話 オークと姫騎士③


「おい、オーク」


「…………」


 きた。


 ある日の午後、オークくんと姫騎士ちゃんはレジカウンターの前で対峙していた。それをぼくはレジのこっち側から眺めている。ふたりの間には、なにか見えない火花が散っているように思えた。


 オークと姫騎士というのは、こっちではすごく仲が悪いイメージがある。それはまあ、向こうでも同じような認識らしく、どうしても種族的に相容れない存在らしい。

 そんなふたりが同じコンビニでバイトをしているというのだから、そりゃあ日常的にトラブルが起こっても仕方がない。今日も例外ではなく、些細なことから衝突を繰り返していた。


「連絡ノートを見たか? 貴様のせいで、またクレームが来たらしい」


「…………」


 オークくんは黙っている。


「貴様、また客の弁当に箸をつけ忘れていたそうだな。客はとんでもなくご立腹だったらしい。フッ。これだから知性の低いオークなどとは……」


「うっす。すんませんっす」


 そう言ったきり、商品の補充に行ってしまった。


「おい、なんだ、そのこころのこもっていない返事は! こら、聞いているのか!」


 ぼくは見ていられなくなって、慌てて彼女を止めた。


「姫騎士ちゃん。その箸の入れ忘れ、誤解なんだよ」


「え?」


「それ本当は、姫騎士ちゃんがやってしまったものなんだ」


 姫騎士ちゃんは、信じられないという様子でつぶやいた。


「馬鹿な。だって、あのレシートには確かにオークの名前が……」


「それはオークくんがレジを使ったあと、姫騎士ちゃんが名前の変更を忘れたままレジを打ってしまったからなんだ。ちゃんと監視カメラでも確認している」


「……くっ!」


 姫騎士ちゃんは膝をついた。姫騎士族の女の子は都合が悪くなると、すぐこうやって煙に巻こうとするくせがあるらしい。


「なぜだ。オークよ、なぜわたしを庇うというのだ。許せん。そうやってわたしに借しをつくっているつもりか!」


 そう言って、オークくんのあとに続いてバックルームに入っていってしまった。


「お、お疲れさまです……」


 と、そこへエルフちゃんがやって来た。


「あれ。今日シフトだっけ?」


「ちょ、ちょっとお菓子を買いに。……あれ、オークさんたち、バックですか?」


「うん」


 こっちにも聞こえるような大声で、姫騎士ちゃんがオークくんに「卑怯者!」とか「決闘だ!」とか言っている。それを聞きながら、エルフちゃんはしれっと言った。


「ていうか、姫騎士さんってオークさんのこと好きですよね」


「あ、やっぱりわかる?」


「わかりますよ。いつも見てるし、なんやかんや理由つけてオークさんと同じシフトばかり入れるし」


「オークくん、優しいからねえ」


「まあオークさん、まったく眼中にないみたいですけど」


「あー、そうだねえ」


 バックルームでは、姫騎士ちゃんが「次こそは負けんぞ!」とよくわからない敗北宣言をしているところだった。

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