第6話 オークと姫騎士②


 で、もうひとりが姫騎士ちゃんだ。

 異世界の姫騎士族というなんやわけのわからん種族の女の子だ。


 まるで女神のような美貌。そして眩い太陽のような瞳を持つ彼女のバイト入りは、ぼくらモテない系男子にとってセンセーショナルな事件だった。


 まあ、彼女の祖先はこちらから移住した人間たちなので、異世界人というのは語弊があるかもしれない。でも法律的にはその呼び方が受け入れられているので、ここではそう呼ぶことにする。


 彼女はエルフちゃんが入る二か月ほど前に入ってきた。

 姫騎士族はプライドが高いことで有名だ。なぜそんな彼女が客商売を? というみんなの当然の疑問に、白銀の甲冑姿で履歴書を持ってきた彼女は胸を張って答えた。


「わたしが働くと決めた。それ以外に理由はいるまい?」


 さすがは姫騎士さまだ。あまりの堂々とした態度に、ぼくらはそれ以上、なにも言えなくなってしまった。


 で、もちろんその研修期間は、ただでは済まなかった。

 姫騎士族は基本、メイド族というこれまた謎な種族にお世話されるのが普通なのだという。ゆえに彼女にとって、お客さんの意思を優先するというスタンスはとんと理解できないものだった。


 あれはある日のことだった。姫騎士ちゃんは揚げたてほくほくのフライドポテトをホットショーケースに入れようとしていた。


 そこへお客さんがやってきた。


「あのう、タバコください」


「うむ。いっしょにポテトはどうだ? 揚げたてだぞ」


「えーっと。……じゃあアメリカンドッグで」


 その瞬間、姫騎士ちゃんは膝を落としてしまった。


「ば、馬鹿者! わたしがポテトを勧めているというのに、おまえは……!」


「え、え、なにこのひと……」


 ぼくは慌ててふたりに割って入った。


「はい。アメリカンドッグですね。少々、お待ちください!」


 お客さんが面倒臭そうな目で姫騎士ちゃんを見ながら去っていたあと、彼女は涙ながらにぼくに訴えた。


「なぜだ、なぜやつらはこちらが勧めたものと別のものを平然と要求できるのだ……!」


 うん、気持ちはわかるよ。でもお客さんが食べたかったのはアメリカンドッグだからね。そこは強引に押しつけちゃダメだよ。


「くっ。わたしはなんと無力……」


 ポテトにここまで真剣になれるなんて、もしかして姫騎士って暇なのかな。


 とまあ、これが姫騎士ちゃんなんだけど……。


 ≪つづく≫

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