第4話 エルフとお弁当温めますか


「それ温めて」


 隣のレジのお客さんが言った。

 その手元にはから揚げ弁当がある。

 横目で様子をうかがうと、エルフちゃんがちらちらとこちらを見ている。


 どうしたのかな。

 でも、こっちも混んでてヘルプには入れそうにないな。


「わ、わかりました……」


 やがてエルフちゃんはなにかを決心したように頷いた。


「我が一族を導きし四大精霊の一柱、炎のサラマンダーよ。いまこそ我の呼び声に……」


「待って!」


 うっかり店ごと爆破しそうなお嬢さんを慌てて止めに入る。


「エルフちゃん。もしかしなくても魔法で燃やそうとした?」


 悪びれずに、こくり。

 むしろなぜ止めたのかと不思議そうである。


「あのね。研修のときにレンジの使い方、説明されなかった?」


「レンジ、ですか」


 彼女の視線は店内をふわふわ漂って、一点で止まった。


「よし」


 そしてホットスナックを調理する揚げ油へするりと――。


「それも違うよ!」


「じゃ、じゃあ、なんなん!?」


 なぜか涙目で逆ギレされた。

 これ、ぼくが悪いのかなあ。


 うしろにあるレンジのドアを開けた。


「これで温めるんだよ」


「こ、この冷たい箱で?」


「う、うん。まあね」


 バタン。ポチ。ゴウンゴウン。


 ――ピーッ。ピーッ。


 弁当を取り出して、エルフちゃんに持たせる。


「あ、温かい……。これは魔法?」


「違うよ。まあ、科学も魔法も似たようなものだけど」


 やっぱり山奥育ちなだけあって、こういうものにはとんと疎いらしい。


「じゃあ、今度からちゃんとお弁当は温めるか聞いてね」


「は、はい! わかりました!」


 新しい知識を得て嬉しいらしく、隣のレジからは頻繁にその言葉が聞こえてきた。

 よしよし、順調に業務内容を覚えていっているな。


 あ、でも待てよ。


 こういうとき、一点だけ注意しておかないことが。


 ――ポンッ。


「きゃ!」


「やばい。エルフちゃん、醤油のパックは外して……」


 それを見て、ぼくは固まった。

 いや、確かに醤油は外さないといけないんだけど!


「お寿司はチンしちゃダメ!」

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