第3話 エルフとポイントカード



「あのねえ」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 あれ?

 裏の整理から戻ってきたら、レジでトラブルが起こっていた。


 エルフちゃんがお客さんに、必死に頭を下げている。


「どうしたの?」


「あ、トシオ」


 まだ出会って一週間だけど、さっそく呼び捨てである。

 うーん。この子はちょっと人見知りの気があるけど、それでも異世界人ってフレンドリーなひとが多いんだよなあ。


 さて。それはそうと、この状況を把握しないと。


 カウンターの上を見るけど、大して変わったことはない。

 商品はきちんと袋詰めされているし、お釣りもちゃんと渡した形跡がある。


「あのう、いかがしましたか?」


「どうしたもこうしたもないわよ」


 小太りなおばさまは、ぷんすか怒りながら言った。


「この子、わたしが出したカード通さなかったのよ!」


 おや。

 見れば確かに、小銭トレーにポイントカードが置きっぱなしだ。


 エルフちゃんは顔を真っ赤にして耐えている。


「あぁ、申し訳ございません」


 ぼくは新しくレジを打ちなおすと、カードを通して会計を済ませた。


「まったくエルフかなんだか知らなけど、ちゃんと教育はしておいてよね!」


 おばさんはぷりぷりお尻を揺らしながら行ってしまった。


「……エルフちゃん。次に困ったら、すぐぼくを呼んでね」


「…………」


 黙ってるけど、わかってるのかなあ。


「なぜ」


「うん?」


「なぜこっちの世界の店には、こんな面倒なシステムがあるですか」


「面倒なシステムって、ポイントカードのこと?」


 こくり。


「エルフの里にはないの?」


「ありません。食料は天がもたらした恵み。狩りの獲物はみなで分け合います」


「へ、へえ。じゃあ、商売はしないんだね」


「ありますけど、あんなものはありません」


 うーん。

 どうやって説明したものか。


「ほら。日本ってたくさんお店があるでしょ? みんなポイントつくお店に行きたいよね」


「ならどうしてわざと千円の下に隠すように置くん!?」


 あー。確かにそんなお客さん、けっこういるなあ。


「こっちを試すような意地の悪さ……。許せん、絶対に許せん」


「まあまあ。少しずつ慣れていけばいいから。ね?」


 そして次の日。


「あなた! またカードを通してないでしょ!」


「エルフちゃ~ん!?」


 なんだかほくそ笑んでるぞ。

 まさか、わざとやってないよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る