第2話 エルフと店内あいさつ
エルフのお嬢さんは、無事に面接を合格しました。
チリンチリン。
「いらっしゃいませー」
お客さんに挨拶したが、続くはずのもうひとりのスタッフの声が聞こえない。
通路で商品の整理をしているはずのエルフのお嬢さんを見つける。
彼女は一心不乱にカップラーメンの賞味期限を確認していた。
「エルフちゃん」
声をかけると、ぎろりと睨みつけられた。
うっ。
このお嬢さん、なぜかぼくを目の敵にしているようだった。
シフトが一緒ということでいろいろ教えなければいけないのだが、どうも恐くて声をかけづらい。
前にもエルフが魔法を使って銀行強盗を働いたという話も聞く。
それでなくともエルフは異世界の山奥で、いまだに狩猟生活を送っているという。
つまり、狩りとか獲物の解体が得意な種族なのだ。
しかし、郷に入らずんば郷に従え。
ここではエルフだろうと人間だろうと、店長に雇われるスタッフであることは変わらないのだ。
「エルフちゃん。お客さんが来たら、ちゃんと大きな声であいさつしなきゃダメだよ」
「…………」
じろり。
「……そんなに睨まないでよ。ぼくのことが嫌いなのはわかるけど、店長に叱られるのはいやでしょ?」
「……べ、べ」
べ?
「べつに、嫌いでは……」
「そうなの?」
こくり。
「じゃあ、どうして睨むの?」
「に、睨んでないもん!」
もん?
あっとエルフちゃんは自分の口をふさいだ。
真っ白な顔が、耳まで真っ赤になっていく。
「お、お父ちゃんが、エルフは田舎もんと思われとっから、舐められんようにせんといかんって……」
しーんと、沈黙が降りた。
「…………」
「…………」
ぼくがなんと言おうか考えていると、ふとレジから声がした。
「あのう、いいですかあ」
「あ、はーい」
ピッ、ピッ。
「六百七十三円になります」
お釣りを渡して横を見ると、エルフちゃんがせっせと袋詰めしている。
それを無言でお客さんに渡すと、ちょこんと頭を下げた。
チリンチリン。
「ありがとうございましたー」
「……あ、ありがとうござまひた」
ふう。
「……とりあえず、噛まずに言える練習しようか」
「は、はい」
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