第2話

激しい戦闘を終えて、先ほどまで腰に携えた短刀で素早くヴィランたちを斬りつけていたジャックの姿が、気が付けばエクスの姿に戻っており、身に纏った鎧の中心に鉄帯をした、盾を携え、皆の身を守りながら槍で敵を突き崩していたハインリヒの姿はタオに、不思議な本を片手にそれを読み上げ、魔法を唱えていた、見た目は幼い子供だというのに、どうも年寄り臭い話しぶりをするシェリーの姿はレイナに、そして、ふわりふわりと辺りを浮遊していたゴーストヴィランたちを、自身の操る杖から放たれる魔弾により次々と撃ち落としていた神官ラーラの姿はシェインへと。


「みたか!ヴィラン共め!」

全てのヴィランを薙ぎ倒し、力強くガッツポーズを決めるタオ。

「驚きました!皆さんお強いのですね?」

いつの間に距離を取り、皆の戦闘を遠くから眺めていた羽衣天女が皆の奮闘に賞賛の声を掛ける。

「驚いたと言えば、羽衣天女さんはヴィランたちを見ても驚いた様子がありませんでしたが、初めての遭遇ではないというこですか?」

「初めても何もこれら、ヴィランでしたか?彼らは今天照様の影の従者として働かされておりますので。」

「ヴィランが働いてるですって!?しかも従者って!?じゃあ何?今私たちを襲ってきたこのヴィランたちも、その天照って奴の指示に従っていたってわけ!?一体どーゆー了見でそんなことになるってのよ!?」

シェインの問いに対する羽衣天女の答えに訳が分からないわ!と憤るレイナ。確かにヴィランに襲われるなんて溜まったもんではないけどもとレイナを宥めながらエクスとシェインが何とも言い難い顔を見合わせる。

「その天照さんというのが方がカオステラーで間違いないとすればですけれども、『調律の巫女御一行』であるシェインたちに対して、ヴィランをけし掛けるのは、当たり前っちゃ当たり前ですけどね。そーゆー旅ですし。」

エクスが口にしなかったことをシェインがあえて口にすると、そ、それはそうだけどもとレイナがごにょごにょと口籠る。

「そうじゃそうじゃ、そう憤るでないぞ、小娘。」

すると突然空から誰かの声が響き渡る。

「えっ?誰??一体どこから??」

声の主が見当たらず慌ててきょろきょろと辺りを見渡すが、レイナの目が怪しい人影を捉えることはなかった。

「もー!天照様!!一体今どこにいるんですか!?」

と、突然天から降りかかるぷりぷりと羽衣天女が怒り出せば、

「む?なんじゃ、天女も一緒におったのか」

「白々しいですねっ!どうせ千里眼で私のことも見えてたくせに!」

「どうじゃろうなー?」

「そんなことより天照様本当に今どこにいるんですか!?」

「かくれんぼの最中に鬼に自らの居場所を教える阿呆がおると思うてか?」

天の声と羽衣天女の不思議なやり取りの光景を見守っていた四人だったが、シェインがそれを遮った。

「えっと…ちょっと待ってください。こちらの声の主が天照さんで間違いないんですよね?さっきから声はしてますけど近くにいるわけじゃないんですか?」

状況が把握しきれず、率直な疑問をぶつけた。

「はい、そうです、声は天照様のものですよ。ただこの近くにはいないと思います。大方声だけこちらに飛ばしているのでしょう。」

「でも、あなたさっき私たちの様子を見てるって…」

「それは、天照様の遠くのものも見渡せる、千里眼という能力で、いつどこにいようともこの世界の中でしたら、見たい場所を見れるという能力なんですよ。」

「そんな力があるなんて天照さんって一体…」

説明を聞いていたエクスが抱いた疑問に本人が答える。

「妾か?妾はこの世界の神じゃよ。」

「――神様ぁ!!?」

四人が同時に驚嘆の声を上げ、一間置き、

「神様って本物の?」

「おいおい、マジかよ!?」

「神様って本当に存在していたんですね。」

「そんな凄い人だったんだね…」

などと四人がそれぞれに驚きの声を上げる。

「あっ!そうですね!旅人さんたちは知らなかったんですね?天照様はこの『古事記・日本書紀の想区』の主役でもあり、太陽の神とも呼ばれているお方なのですよ。」

皆の驚きの顔を見て羽衣天女はくすくすと笑った。

「それで、先ほどのかくれんぼというのは?」

落ち着きを取り戻したシェインが先の会話で引っかかった単語拾い上げる。

「ああ…それはですね。天照様が突然、運命の書に記されている通りにするだけではつまらないとか言い出しまして、全然働いてくれなくなってしまいまして、この通り、世界の創造も進むことなく辺りは一面海だらけ。見兼ねた私たち羽衣天女が天照様にそろそろ働いてくださいよと持ち掛けたら、かくれんぼで今日中に自分を見つけ出すことができれば働いてくれると約束してくれまして…」

嘆くように羽衣天女が事の顛末を語る。

「世界の創造とかスケール大き過ぎてなんか話についていけないけど、それをつまらないからの一言で辞めるなんてなかなか酷い話ね」

レイナが羽衣天女に憐みの声を掛けると、そうですよねー!とまた怒りが込み上げてきたのか、ぷりぷりと怒り出す。

「それにしても…天照さんには千里眼という能力があるんですよね?そんな相手とかくれんぼなんて勝ち目なんてあるんですかね?」

シェインにとっては何気ない疑問だったのだが、その言葉が羽衣天女に深く突き刺さったらしく、その場にへなへなと倒れ込み、目に涙を浮かべて、だからあの時あんなに素直に快諾を…と力なく呟いた。

「その辺のことはすっかり忘れてたってわけだな」

タオの一言に天照様酷いですと羽衣天女がよよよと泣き出してしまい、

「あっ!タオ兄が女の子を泣かした!」

「ちょっと!もー!何してんのよタオ!」

女性陣二人に責められ、お、おい、何も泣くこたぁねーだろ!?と慌てて慰める。

「そんなことよりもじゃ。」

ひとしきり話が終わったところで天照が話切り出すも、自分が必死にやってたことをそんなこと呼ばわりされた羽衣天女が慰めの甲斐もなく、天照様のバカー!と号泣様を見て、鬼ですね。とシェインが一層深い憐みの表情を浮かべた。

「先の戦い見せてもらったが、お主らなかなかの手練れじゃな?その力を見込んで、妾の所まで招待してやろう。」

思わぬ提案に、えっ?とレイナが食いつくが、

「でも、どうやって?」

当然の疑問に天照は解決法を提示する。

「これじゃよ」

天照がそう言うと、地面から虹が伸び出し、どこかへと続いているようだった。

「これって…虹?」

「虹…ですね…」

「虹…だね…」

突如目の前に現れた虹に呆気に取られ、ただそれを眺めていた三人だったが、はっと我に返り、

「いやいやいや、虹が現れたところでどうすれっていうのよ!」

レイナが声の主に対して声を荒げる。

「おーい!お前ら何してんだよー?さっさと行こうぜ?」

島の大きさから考えられない距離感の遠くから呼び掛けるタオの声に、えっ?と三人は顔を見合わせる。

「その虹は妾の力で作った特製の虹じゃ。お主らでも渡れるようにしてある。それを渡って妾の元までと説明しようと思ったのじゃが、既に一人渡り始めているようじゃな。」

面白い男じゃのうと天照は笑う。

「いやー、いつか虹を渡ってやりたいとは思ってたんだけどよ。こいつの端っこがいっつも見つけられなくて悔しい思いをしてたんだけど、こんな形で一つ夢が叶うと思わなかったぜ!」

と、嬉しそうに虹を進むタオを見送りながら、

「なんかもう…色々とマジですか…」

言い表せない複雑な感情を漏らすので精一杯なシェインだった。

「ま、まぁ、見ていてもしょうがないし、僕らも行こうか」

エクスの声掛けに三人は虹の橋へと足を踏み入れるのだった。


初めての虹の橋に一同は盛り上がりつつ、この想区の話など他愛無い話を交えながら歩を進めると、虹は先ほどよりは少し広い足場程度の島へと辿り着いた。

「ここが目的地?天照あなたどこにいるのよ?」

虹が終わっていることから当然そこには天照がいると思っていたレイナは狐につままれた思いに駆られた。

「なーに、ただこちらへ案内するのもつまらぬと思ってな。まぁ一つの余興といったところじゃろうか…」

天照が言い終えるのを待つことなく、

「クルルルルゥ~!!」

雄叫びと同時にヴィランがたくさん姿を現す。

「おいおい、今度はメガゴーストヴィランまでいやがるじゃねーか…」

ゆらりとその姿を現した一層大きなヴィランの姿にタオが嫌そうな顔を見せる。

「さっきと同じレベルではつまらぬだろうと思うてな。まぁこれは妾のほんの気持ちじゃよ。そやつらを全て滅せば次なる虹の橋を掛けてやろう!」

楽しそうに条件提示をする天照に、

「なんて迷惑な気遣いなのかしら!皆行くわよっ!!」

悪態を吐きながらレイナが空白の書を掲げ、それに続いて三人もそれぞれコネクトを始めるのだった。


               ♢♦♢♦♢


最後に残ったメガゴーストヴィランを相手に、シェリーの強力な詠唱魔法が炸裂し、全てのヴィランがその姿を消した。

「やってやったわよ天照!」

ばっちり決めたレイナがこれ見よがしに声を張り上げる。

「ほー。いやいや、本当になかなかやりおる。」

素直に褒め称える天照に、

「タオ・ファミリーをなめてもらっちゃ困るぜ!」

自慢げに踏ん反り返るタオに、だからそのファミリーに私を含めるのやめてよね。と、レイナのお決まりの台詞が続いた。

「ふふふ、骨のある一行じゃのう。それでは…」

島に次なる虹の橋が架かり、

「はぁ…一体これがあと何度続くんですかね?」

「仕方ないよ。今の僕らにはこれを進む以外ないんだからさ」

ついつい漏れでたぼやきをエクスに励まされ、

「そうですね。それと…早く行かないとあの二人にが見えなくなりそうですね。」

「うわっ!?本当だ!シェイン!早く行こう!?」

エクスの気付かぬうちにとっくに虹の橋を渡り始めていたレイナとタオを見て慌てるエクスを、まぁまぁ、道は一つですし、シェインもう走りたくないです。とすかされ、二人はゆっくりと歩き出すのだった。

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大海原に架かる虹の橋 あひる @ahiru852

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