私と彼の。

私が彼を描くにあたって与えたものは、私が生きていく上で抑圧しなければならなかったもの。

彼は私の、弱さであり、欲望であり、狂気であり、絶望だった。


私は、たった六年の月日で考えた未熟な解答で、私を考えた。

彼は居なくなった、なのに何故私は生き残ったのか。

特別、仲が良かったわけでもない。反対廊下の同じ病室。同じ病。

先に居たのは彼で、先に居なくなったのも彼だ。


私は正直、死ぬと思ってた。

六にも満たない小童風情が、傍若に振る舞って困らせて、どうせ終わるんだとやけになっていた。


退院する時、嬉しかった、ような気がする。

ただ、病院は暇だ。すごく、暇だった。友達なんて居ない。小さい子を見てるだけ、おっきい子を見てるだけ。

いつも周りは大人ばかりだったから、子供が何するか?わからないよ。


退院したとき、呆然とした。

なんで生きてるんだろう?

いっぱい入院して、いっぱい痛いことして、いっぱい苦しくって、気持ち悪くって、ぐるぐるして、

髪の毛、全部抜けた。笑ってた。でも、死ぬのかな?って思った。

頭がつるつるになったのはぜんぜん気にならない。うそ、寒かった。冬だもん。


ニットを被って登校した。

たしか一年生の後半? 何にも分からなかった。

勉強は平気。暇つぶし、いっぱいした。英語はさっぱりだったけど。

退院したら嫌いになっちゃったよ。出来ることいっぱいあったから。いっぱいすぎて何すればわかんないけど。


一番困ったのは、えりぃ、君だよ。おっきくなっちゃって。

抱きかかえられるくらいのちっちゃな君が私を引き回すくらいおっきくて力もあって、ちょっと怖かったよ。


友達は出来なかった。話しかけられても、八ヶ月の時間は誰が誰だかわからなくするには十分だった。もともと、ままごとの手伝いしてるか、小さい子を観察してるくらいだった私は同年代との交流はほとんどないと言ってよかった。

もうなんでか忘れたけど、何かがあってえんぴつ突き刺した子はいたけどね。ごめんね。


ずっと見てた。たしか、三年生?四年生?そんな時までずっと。

そして、いじめられてた子にちょっかい出すなんて。よくわからないよね?なんでいじめられてるの?なんてひどいよね。


よくわからない。よくわからないよ。

そういえばあの人、どうして突然家に遊びに来たんだろう。それまで話した覚えなんて一つもなくってすごくびっくりした。

いじめられっ子君にちょっかい出す前のことだけど、少しだけ仲良くなった、気がした。

その人はいじめに加わってなくて、なんか何時もわちゃわちゃしてたね?誰かとずっと話してた。入れ替わり立ち替わり、入っていく勇気はなかったから、遊び行ってもいいか聞かれたら、いいよって言う感じだった。

おせっかい焼きめ。ありがとう。


そう、六年のときかな。

バイオが流行ってね。感染ゲーム、私に捕まったら負け。私はああ、これいじめの一種だなーとは思ったけど、ハブられるよりは何となく楽しいので追いかけ回してた。

まあ、先生に怒られたけどねその子ら。なんでお前怒らないんだ的なことも言われたけど、いないものよりいいじゃないですか。ダンマリされたね。


気づいたのはずっと前だけど、利用し始めたのはその時からだね。

身体は子供みたいなんだ。条件反射みたいに泣いたり怒ったりするのをボーと見つめる。ときおり、なんで怒ってるのか忘れたり、そしたらボーっとしてる私が怒っているようなフリをしたり。


今でもそう、こころはついていけない。

いっぱい感動できても、泣いても、笑っても、半分はフラット。

凪、静か、何も無い。

見てる、聞いてる、感じてる、けど平坦で、平面、一直線。


なんで私は泣いているんだっけ?

なんで私は怒っているんだっけ?

なんで私は憤っているんだっけ?


いっぱいいっぱいになっても、半分。

ほんとうに一杯でどうしようもないことなんてない。



すごく、気持ち悪いよね。


私は生きるために探していた。

だって、死ぬと思ってたから。空っぽ。だから、実を言うと退院前のことほとんど覚えてないよ。いまだから、じゃなく。退院したあの時からずっと思い出せない。


ずっと僕と発音出来なかった。正直、中学でなんとか言えるようになったくらい上手く発音できないから、私は私を自分と呼んだ。自分は、自分で、自分です。

俺、という一人称がいまだに嫌いです。それでも、高校では俺を定着するまで頑張った。正直すごく頑張った。


小説で彼を書き始めたときには、私は私だったけれど。

だから、俺は彼になって、私が私になった。

フラット。

凪。

平坦で平面。


高校、少しずつ、少しずつ、私に俺を混ぜて、俺に私を混ぜて、少しずつ。

痩せよう、だなんて部活に入った。多少痩せた。その後太っちゃった。

やる気もないのに、部長なんてやって、部長なんだからしっかりしろって言われて。子供な身体は半泣きで辞めるだなんて言いながら。半分の私は、じゃあ相方、立候補してたしやっぱやらせとけばよかったかな?なんて。

部活、女子が先生と対立したり、先生が無謀やったり。それ逆効果だし、絶対この子ら理解しないよ?なんて、言ってあげる気は一つもなかった。

先生なんだからしっかりしてよ。生徒をよく見て考えてみれば?当事者ではあったけれど、内心嗤っていた、酷い滑稽な茶番だったね。


楽しいか?と言われたら、最初は楽しかった。

でも、勝ちを目指す方針になってから、それはさっぱりわからないものになった。

勝てるわけがない。

誰よりも自分が一番理解していた。身体が全然出来てないのに、小手先の技だけでどうにかなるわけがない。


そんなどうしようもないものを三年、積み重ねてしまった。



何にもかも中途半端。

足掻き続けた小説はまだ半分。

彼はまだ私の狂気も弱さも表せてなどいない。


私は弱い。

心も身体も、意志も。


私の考えは正常に狂ってる。矛盾した形を正しく保っている。

私は人を殺してはいけないと言いながら、殺人を肯定出来る。

私は人を傷つけてはいけないと言いながら、人を傷つける。

私は、私が嫌いだ。


死んでしまえ。


死にたくない。


生きたくない。


わからない。


今にしがみつくのは、足掻き続ける彼の小説のため。彼の物語のためだ。


それがなければもう、こんなところにはいない。


十分だ。


人間は怖すぎる。


人間は理解出来ない。


人間は狂ってる。


理性的に狂ってる。



私と、同じだ。





さむい。

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