物語の始まりは、世界の始まりから
スカフェルド -処刑台-
狂い笑いに振り下ろされた。
*
血濡れた部屋。
生者は三人。
遠く聞こえるのは、
慰める余裕はなかった。涙は一筋。
目的一つ、定めよう。
*
葬儀もろもろ何もかも、終わってしまうとひどく空虚だ。
三人はそれを共有したけど、一人は期待するのはやめにした。
案の定、警察は役立たず。一人は動き出した。そろそろ二人を起こさないと。
不思議なほどあっさりと見つかった彼は待っていた。
きっと少女を待っていた。
血狂いの彼は言う。
「斬りたいだろう?」と
冷たく少女は呟いた。
「ああ、おまえを」
銀閃。
先駆けたのはどちらか。どちらもか。交錯した銀は橙の火を散らす。
使い手として互角。だけれど二人は、殺人鬼と高校生。
人を斬ることを知っているものと知らないもの。
彼女が知っている。彼女が見ている。
少女はそれを知っている。だから死は恐れない。血狂いの彼を見つけたのも彼女だから。
知っている。二人が死んだのは三人のせい。少女と弟と妹。力は平等に。使いみちはそれぞれに。彼女が与えたもの。彼女が失ったもの。
だから彼女を守るために、二人は彼女に譲った。そして力ない二人は殺された。
まるで、自業自得?関係ない。許さない。
銀閃が幾重に重なる。刃の交わる音、散る橙の火花。
力の使いみちを定めた少女が血狂いの彼を
切っ先は軽くなる。早く速く疾く。
そして、軽くなりすぎた。
一閃、切ったことがあるかどうか、ささいな違い。
二閃、彼女の介入。生死を分けたのはたったそれだけ。
銀閃を描いた鋼は無残に砕け、胸元に一筋の傷。
血狂いの彼は言う。
「もったいない。また会おう」
少女は虚空を見つめて動かなかった。
彼女は何も言わなかった。
血狂いの彼は去る。
*
その日、彼が来たのは必然だった。
ソレを持ってきたのも。
彼はただ、ソレを投げ捨て少女にきいた。
「名前は?」
「....
返事はせずに彼は帰った。彼の興味の対象は弟だったから。
少女は身の丈を超えるソレを一払い。復讐の準備をはじめた。
*
やっぱり彼は待っていた。
けれども、血狂いの彼は何も言わない。
彼女は見ていない。
血狂いの彼と復讐者の少女は構える。
言葉は口でなく、筆でなく、拳ですらない。
刃で伝える。必ず、伝える。
少女の怒りを。
血狂いの狂気を。
少女の憎しみを。
血狂いの快楽を。
銀閃。交錯した銀は橙の火を散らす。
一閃、ただただ力の違い。
二閃、振り下ろされたのは、死の刃。
言葉はない。
少女はふと思った。私刑と死刑は音が同じだと。くだらないこと。
薄青く濡れた執行台は欠け一つなく。打ち砕かれた鋼が散らばる。
薄明かりに反ってきらめく銀の中を、少女はぼんやりと歩き去った。
骸は一つ。
生者はいない。
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