物語の始まりは、世界の始まりから

スカフェルド -処刑台-

狂い笑いに振り下ろされた。



 血濡れた部屋。

 くらいい空。


 むくろは二つ。

 生者は三人。


 遠く聞こえるのは、血狂ちぐるいの笑い声か。


 慰める余裕はなかった。涙は一筋。

 目的一つ、定めよう。



 葬儀もろもろ何もかも、終わってしまうとひどく空虚だ。

 三人はそれを共有したけど、一人は期待するのはやめにした。

 案の定、警察は役立たず。一人は動き出した。そろそろ二人を起こさないと。


 不思議なほどあっさりと見つかった彼は待っていた。

 きっと少女を待っていた。

 血狂いの彼は言う。


「斬りたいだろう?」と


 冷たく少女は呟いた。


「ああ、おまえを」


 銀閃。

 先駆けたのはどちらか。どちらもか。交錯した銀は橙の火を散らす。

 使い手として互角。だけれど二人は、殺人鬼と高校生。

 人を斬ることを知っているものと知らないもの。


 彼女が知っている。彼女が見ている。

 少女はそれを知っている。だから死は恐れない。血狂いの彼を見つけたのも彼女だから。

 知っている。二人が死んだのは三人のせい。少女と弟と妹。力は平等に。使いみちはそれぞれに。彼女が与えたもの。彼女が失ったもの。

 だから彼女を守るために、二人は彼女に譲った。そして力ない二人は殺された。

 まるで、自業自得?関係ない。許さない。


 銀閃が幾重に重なる。刃の交わる音、散る橙の火花。

 力の使いみちを定めた少女が血狂いの彼をす。

 切っ先は軽くなる。早く速く疾く。

 そして、軽くなりすぎた。


 一閃、切ったことがあるかどうか、ささいな違い。

 二閃、彼女の介入。生死を分けたのはたったそれだけ。


 銀閃を描いた鋼は無残に砕け、胸元に一筋の傷。

 血狂いの彼は言う。


「もったいない。また会おう」


 少女は虚空を見つめて動かなかった。

 彼女は何も言わなかった。


 血狂いの彼は去る。



 その日、彼が来たのは必然だった。

 ソレを持ってきたのも。

 彼はただ、ソレを投げ捨て少女にきいた。


「名前は?」

「....scaffoldスカフェルド


 返事はせずに彼は帰った。彼の興味の対象は弟だったから。

 

 少女は身の丈を超えるソレを一払い。復讐の準備をはじめた。



 やっぱり彼は待っていた。

 けれども、血狂いの彼は何も言わない。


 彼女は見ていない。


 血狂いの彼と復讐者の少女は構える。

 言葉は口でなく、筆でなく、拳ですらない。


 刃で伝える。必ず、伝える。

 少女の怒りを。

 血狂いの狂気を。

 少女の憎しみを。

 血狂いの快楽を。


 銀閃。交錯した銀は橙の火を散らす。


 一閃、ただただ力の違い。

 二閃、振り下ろされたのは、死の刃。


 言葉はない。

 少女はふと思った。私刑と死刑は音が同じだと。くだらないこと。


 薄青く濡れた執行台は欠け一つなく。打ち砕かれた鋼が散らばる。

 薄明かりに反ってきらめく銀の中を、少女はぼんやりと歩き去った。



 骸は一つ。

 生者はいない。


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