運命を切り裂く .1 - 出会う -
そいつにあったのは、あるいは運命か、とんでもない偶然か。
昼下がり、病院にちょいと用があって顔を出した。
会社で使ってる医療技術の一部を広めるためだが、外科のレベルが足りないとかでここに卸すのは無理そうだ。
本州の大手には独占の話が上がったから絶対にやらん。ふざけやがって。確かに儲けは良い。ああ、素晴らしいよ。だが、広めるのがメインだ。独占させる気などサラサラ無い。
喫煙室も無いような所だが院長が熱心で持ってきたんだがな。まあ、扱えるレベルに育てば連絡くれるらしいし、いいか。
屋上でのんびりとタバコをふかす。暇だな。
ありがたくないことに最近アメリカから依頼が来ない。細々とした対テロ戦を幾つか処理したが、今じゃ技術開発の売上や一般工業製品の売上の方がよっぽど多い。
EU連名の対テロ作戦の依頼もあったが額面がクソすぎて話にもならなかった。かわりに特殊部隊向けのインストラクターを何人か送ったが。
タバコが半分ほどなくなる頃、一人屋上に上がってきた。
すぐにわかった。ああ、気付いたさ。彼がそうだと。
「少年」
「あ?」
不機嫌そうな反応に苦笑いを返しながら、ポケットから今回とは別件で使う予定だった、血清を取り出す。俺の力の一部を取り出せないかと思って試作したが、こんなところで使えるとは。
「治したいか?」
「馬鹿か貴様」
荒い言葉を裏切って”治したいに決まってる”と表情に出ている。
「これを点滴に混ぜろ。二ヶ月もあれば治るだろ」
「はあ?こんなもんでか」
彼は疑うような声ではなく、興味深いような声音で呟いた。ほぼ透明の薄紅色の液体。僅か10mlのそれを日に翳し目を細める。
「あんた、名前」
「天凪 龍屠だ」
「そうか。無月 龍人だ」
ああ、やっぱりリュートか。全く運命に呪われてやがるよ。それほど殺したいかよ。
「キャップを外したら針だ。怪我すんなよ」
「面倒なことになるな」
「大丈夫だよ。こっちでどうとでもなる」
彼は鼻で笑うと屋上を去った。
そう、それでいい。
俺達の出会いなど。
あとは結果次第。
奇跡は起こらない。
結果は必然。
「帰るか」
吸いかけのタバコを素手で握りつぶす。
次の仕事は東ティモールか。またみみっちいテロ戦だが、確か独立戦争の絡みがあったか。
これからはもうこの
LG社本島を確保するだけでも、かなり齟齬が出たからな。
観測者ではいられない.....か。
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