Episode 17 「ご飯? お風呂? それとも、わ・た・し?」
アンチ物理規制委員会をやり過ごすために近くの公園へ逃げていった豪太郎たち。そこに姿を現わしたのは真実ちゃんだった。彼女はできたばかりの器具を使用して豪太郎の確率波を操作したらしく、おかげで宇宙ゴキの危機を脱することができたのだ。だが彼女がその詳細を語ることはなかった。一徹のセクハラ攻撃で撃退されてしまったからだ。
「真実ちゃんがいなくなったんなら、もう大丈夫ね。さっさと帰りましょう」
母涼子はそう言いつつも、さりげなく左手を大門くんに伸ばそうとしていた。
そのたおやかな手の平を睦美のズンドウボディがバムバムと阻み、やがて二人の間で奇妙なさや当てが演じられていく。
「ちょっ、なにすんのよ睦美ちゃん!」
「だって、おばさんはもう結婚してますよね?」
「おばさん言わないでよ!」
「はい……じゃあ、お母さんっていうのもへんだから、……涼子さん?」
「そうね……。じゃ、それで」
「(……なに言い合ってんだこの二人?)」
「で、涼子さんにはもう旦那さんもいれば子どももいるじゃないですか!」
「い、いいじゃない! わたしだってたまには若い子のエキス吸いたいんだから」
「だったら、金剛丸くんのエキスでいいですよね?」
「えぇ豪太郎の……!?」涼子は手の平を左右に振りながら、ドン引きの表情を見せる。「それはないわぁ~」
「そうですね」言われて自分の失言に気づいたのか、睦美は全身を縮こまらせた。「……たしかにそのとおりかもしれないですけど。言いすぎました。すいません」
言ってぺこりと頭を下げる。
「ま、わかればいいのよ」
「(……そこ、謝るんかい!?)」
「もしかしてなんだけど」
涼子と睦美のどうでもいいようなやり取りを、まるでなかったかのように大門くんは豪太郎に話しかけてきた。きっと女の子(?)同士が自分を取り合う光景には慣れっこなのだろう。下手に介入するよりはないものとして処理する方がなにかと角が立たないのかもしれない。
「なに……?」
「さっきのって、人類滅亡の危機みたいな状況だったわけ?」
豪太郎は控えめに頷いた。「まあ、そんな感じで」
「じゃあさ、」
大門くんがズイっと顔を押せてくる。豪太郎は不覚にも赤面してしまう。
「ひょっとしたら授業中に突然いなくなるのとかって、やっぱりおんなじようなことがあるからなの?」
「そう……だね。この前は隕石が学校に落ちないように荒川の土手まで連れてかれたりした……みたいだし」
ひどく頼りない豪太郎の返事に大門くんはしかし、雷に打たれたかのような驚きを露わにする。
「そうか、そうだったんだ」まるで自分を説得させるかのように頷く。「ボクたちの知らないところで金剛丸くんががんばっていたんだね……」
感動すら感じているような大門くんの表情。
そこで豪太郎はふいに疑問を持ってしまう。
「えっと。ということは、それまでなんだと思ってたの……かな?」
「だって、ほら」言いながら大門くんは、ボリボリと腹をかいている一徹を見やった。「お父さんがやってることなんで、あんまり家族のことに口出しちゃいけないかなって」
「はあ……」
「なんか、家庭の事情みたいなわけがあるのかなって」
「それって、クラスのみんなそうなのかな?」
「……そうだね」
「学校の先生なんかも?」
「うん……タブンだけど」
豪太郎は大門くんとシンクロするように、裸足になってベンチ上であぐらをかいている一徹をじっとりとした眼で見る。一徹はいつのまに買ったのかロング缶のビールを「ぶはぁ」と言いながらグイグイ呑んでいるところだった。
「(……たしかに、アレには関わり合いたくはないよなぁ。……そりゃ、家族の問題で片付けたくなるのも分かるけど)」
「でも、なんで危機がくるって分かるのかな?」
大門くんの素朴な疑問に答えたのは一徹だった。
「そりゃあ、体質だよ」
「そうなんですか!」ポンと膝を打つ大門くん。
「(……それでいいの!? ねえ、それでいいの大門くん!?)」
あっさり納得してしまった大門くんはそこで豪太郎の肩をガシッとつかむのだった。
「これからは金剛丸くんのこと応援するから!」
「「マジで!?」」
思わず間抜けな声を上げてしまったのは一徹と涼子。
「フツー引くわよね?」と涼子が言えば、
「関わり合わないほうがいいじゃね?」と一徹が応じる。
だが大門くんはまたしてもなにもなかったかのように振る舞った。
「本当のことを知ってしまった以上、金剛丸くん一人に任せきりにはなれないよ!」
「……マジすか?」
「世界人類の存続がかかってるんだろう? これからは、ボクたちが全力でサポートするから!」
力強く宣言しながら大門くんはみょんみょん言ってる睦美、そして玲に視線を向ける。
玲はというと、相変わらずなにかを企んでいるかのような不気味な笑みを貼りつかせたまま。
「さすがイケメンね……! 魂までイケメン色よ!」
「うぅ、やっぱり大門くんかっこいい! ……みょんみょん」
「くっ、やはりこのオイラが見込んだだけのことはあるな! さすがだぜ大門くん!!」
大門くんの実に男らしい心意気にやたら盛り上がる涼子、睦美、そしてなぜか一徹。
「そろそろ帰ろうよ……」豪太郎はボソリと呟くのが精一杯だった。
「ただいま……って、うげぇええええええ――ッ!!」
“
縮尺から考えると顔だけで上下6フロアは占有していそうな巨大サイズだ。
思わず床に尻もちをつきながら豪太郎は声を震わせた。
「ど、どうした痛子?」
痛子の巨大な瞳がギロリと動き、その焦点が豪太郎を捉える。
怪獣に見つかるってこんな感じなんだなあという奇妙な感慨が豪太郎を包む。
「あ、ゴーくん! お帰りなさいなのですぅ」
言った直後、痛子は通常のサイズに戻る。デフォルトの肩出し魔法少女コスチュームだった。
いつもの姿を確認して、豪太郎はほっと一息。
「なんなんだよ、いったい?」
「てへっ」痛子は片眼をつぶってぺろりと舌を出した。「痛子、拡縮の練習をしていたですよぉ」
「拡縮?」
「どこまで大きくなれるのか、試してたですぅ」
「って、もしかしてはみ出てた?」
「それは大丈夫なのですぅ」痛子はケロリと答えた。「痛子、眼だけを大きくしていたのでお隣さんや上下の人には見られてないですよぉ」
「そうか……」豪太郎は一安心して溜息をつく。
「ゴーくんが痛バレしないように、痛子は細心の注意を払っているですよぉ」
「はあ……」
その割にはいつも学校で眼が合っているような気がするのだが。
「あ、そうですぅ!」痛子はなにかを思い出したかのように手を叩いた。「ゴーくん、お願いがあるですよぉ」
「なんだ?」
「いったん部屋から出て、痛子がいいですよぉと言ったら、もう一度入ってきてほしいですぅ」
「ええっ?」豪太郎は唇を尖らせた。「オレ、マジ疲れてんだけど」
「まま、そういわないで、お願いするですよぉ」
「……しょうがないな」
渋々と部屋から廊下に出る豪太郎。
しばらく待たされた後で、痛子の「どうぞぉ」という声が聞こえてきて再び部屋に戻る。
「――ッ!!」
そこには三つ指をついている痛子の姿。
「お帰りなさいなのですぅ、ゴーくん!」
「痛子、そ、そ、そ、その格好は――ッ!」
「先にご飯にしますか? それともお食事?」痛子は妖艶に微笑む。「それとも、わ・た・し?」
隣家にまで聞こえそうなほどの音を立てて豪太郎が生唾を呑み込む。
「きゃっ! 痛子、ついに憧れのセリフを言っちゃったですよぉ!」
痛子は破顔しながら立ち上がり、その裾を両手でつまむ。
「は、は、は、は……」
「ルパンダイブしてもいいですよぉ?」
言いながら痛子はくるりくるりと2回転。
いっぽうの豪太郎は、もはや完全にキャパオーバー。
未曾有の事態に、全身が
裸エプロン姿の痛子を前にして、脳回路の一切が完全に灼き切れてしまったのだ。
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