第78話 地竜搭載戦闘用特殊大型自動二輪車
――時はしばし
〔非常時ですので、スピード違反についてはどうかご
「構わないからぶっ飛ばしてッ!」
【
(このスピードなら、先に抜けられる、か……?)
長時間は厳しい前傾姿勢で〔ユナイテッド〕に乗り、すぐ目の前にある誘惑――
しかし、彼女のそんな希望的観測を
その一部は選手村のほうへ曲がり、大半が道なりにオルタンシアと外をつなぐ連絡橋への道、つまり、走行する〔ユナイテッド〕のほうへ向かって突き進む。
この
「がうぅっ」
〔
ラグビーボールのような楕円形、その上半分のような形の【障壁】を展開する〔ユナイテッド〕。
その【障壁】の内側に2門のガトリング砲が入ってしまっている。だが、問題はない。
何故なら、〔ユナイテッド〕は知っているからだ。
同時に、自らを製造した技術者の一人、当時は小さなバイク店の主に過ぎなかったグランディアの若者が、悪と戦う正義のヒーローの
それ故に、自らに搭載されている障壁発生装置が、外側へ弾く力を発生させる斥力場型、要するに、――乗車したまま戦えるよう、展開したバリアの内側から攻撃できるのだという事を。
〔攻撃、――どうぞ〕
「ガァルルルゥッ!」
敵の群れを見据えるパイクの
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!
連射速度は毎分およそ8000発。火薬が爆発して発生したガス圧で撃ち出している訳ではないので、響き渡るのは衝撃波の轟音。
絶え間のないその砲声は鳴りやむ事のない雷鳴の
生体力場を易々と突き破られ、牙や爪や角が砕け散り、複数ある首や翼や四肢が千切れ飛び、身体や脳天に開いた風穴から血を撒き散らし、
だが、
早くも屍山血河の様相を
押し寄せる怪物全てを相手にしている余裕はない。何故なら、展開した【障壁】を永遠に維持できる訳ではないからだ。
たまたま重機関砲の咆吼を
それから程なくして、始めは向かってくる怪物共を迎え撃つ形だったのが、選手村のほうへ向かった怪物共を追撃する形になり……ついには先頭集団を追い抜いた。
そして、前方に見えたのは、連絡橋と浮遊島の接合部に存在する立派な
「がうっ がぁうっ」
〔
レヴェッカは、カウントダウンのおかげで何とか心の準備が間に合い、パイクは、先頭集団を追い抜いた時点で砲口の向きを、ぐるんっ、と180度変えて後方へ、今は追いかけてくる形になっているキマイラの群れへ絶え間のない猛射を続けていた2門のガトリング砲を放棄し、起動にタイミングを合わせて【
それによって、圧縮空気を噴射しての
「――止まってッ!!」
レヴェッカの鋭い制止の声に急制動をかけ、甲高いブレーキ音を響かせて急停車する〔ユナイテッド〕。
着地からそのまま走り出したところだったのだが、依頼内容が変更され、《トレイター保安官事務所》に協力しなければならない以上、無視する訳にはいかない。
「パイクくんの力であの門を強化できない?」
振り返っていったい何事かと問おうとしたパイクだったが、口を開く前に
「このままじゃあっと言うに破られる!
パチパチ数度
そうして、紋章を介した【精神感応】で一瞬とも言えぬ間に、自分が見た物、聞いた事をごしゅじんに伝えて相談し、
「――――ッ!?」
くわっ、と目を見開いた。やっぱり、ごしゅじんはすごい。
「パイクくんッ!?」
〔ユナイテッド〕から、ぴょんっ、と飛び降りたパイクは【弱体化】を
そして、それに呼応するかのように、ズズンッ、と浮遊島の縁に
『…………?』
いったい何が起きるのかと身構えていた一同の前で、くるりと身を
そのまま、自分に集まっていたもの問たげな視線など気にも留めず、ドンッ、と地を蹴って大跳躍。着地する前に【弱体化】で子犬サイズに戻り、テッテッテッテッテッ、と軽く助走して、ぴょんっ、と
「パイクくん、今――」
何をしたの? と続くはずだったレヴェッカの言葉を
保安官が、正騎士が、意識を切り替え、不退転の決意を
それは何故か?
まるで大移動するヌーの群れが対岸へ渡ろうと川へ飛び込むかのように、こちらへ向かってきていた怪物の群れが、だいたい中央で左右に割れ、そのそれぞれが大門へは向かわず次々と連絡橋から跳んで塀に激突し、そのまま20キロ下の大海原へ向かって落ちて行くからだ。
「…………パイクくん、いったい何をしたの?」
今いる位置から見えているのは、依然として健在な大門。
聞こえてくるのは、
レヴェッカには、大門と塀の向こう側で何が起こっているのかを知る
「がぁ~う」
〔奥の手の一つを使いました、と申しております〕
使用した能力名は、――【庇護の紋章】。
それは、献身の宝具であり、全ての害意を自らに引き付けて受け止め、仲間を、弱者を、背に庇い護る円形盾――〔
パイクはまず、
その結果が、大門と塀の向こう側で今なお続いているキマイラの集団自殺のような有様。
「がうっ」
〔
ごしゅじんが協力するというなら否やはない。だが、本来、秘め隠すものである奥の手について事細かに説明してやる義理もない。
パイクの指示で走り出す〔ユナイテッド〕。
レヴェッカは束の間、ぽか~ん、としていたが、やがて、苦笑しつつ、
「まったく……やると決めたら情け容赦ないところとかも含めて、
それに対して、パイクは風防に両前足をかけて前を見詰めたまま素知らぬふり。
しかし、尻尾は正直で、左右へゆらゆら誇らしげに揺れていた。
選手村とは言っても、オルタンシアを構成する浮遊島の中でも最大規模の大地にある小都市で、各国を代表する学生達は、まとまって『アパルトメント』と呼ばれるような集合住宅に入っているチームもあれば、隣接する幾つかの一軒家に競技のグループごとに入っているチームもある。
法定速度+10キロ程までスピードを落とした〔ユナイテッド〕は、レヴェッカの
この辺りはまだ静かだった。鳴りやむ事のない雷鳴の如き轟音、折り重なるように響き渡る怪物共の断末魔、撒き散らされる血飛沫、飛び散る肉片……それらがまるで悪い夢だったかのように。
しかし、それらは
柱型のものではなく、道沿いの家々の壁に掛けられている街灯が夜道を照らしているのはいつもの事。だが、やはり異変を感じているらしく、明日の試合に備えて寝静まっているはずの時間帯であるにもかかわらず、明かりが付いている家が多い。
それは、リーベーラ国立魔法学園の生徒達が宿舎として利用している集合住宅も同じだったが、ここではそれだけではなく……
「はいはいッ! こんな夜中に大声出していったい何事?」
パンパンと
〔ユナイテッド〕が通りやすいよう両開きの扉を大きく開け放って
「ずいぶんとお早いお戻りだな」
フィーリアとクオレだけでなく、口でこそ皮肉たっぷりだが、明らかにティファニアもほっとした様子。
それに対して言い返そうとレヴェッカが口を開くよりも早く、
「どこに行っていたのか知りませんが、戻ったのなら状況を説明して下さいッ! 今、何かが起こっているという事は分かっているんですッ!」
そう食って掛かったのは、燃えるような赤い髪を短めに整え、紅の瞳は意志の強さを
「あっ!? 君はあの時の……っ!」
自走して門を通ってきた〔ユナイテッド〕、その風防に両前足をかけて乗っているパイクを発見した途端、リーダーの隣で喜びの響きを
油断していた《トレイター保安官事務所》の面々の脇をすり抜けて駆け寄った少女は、軽く腰を曲げて顔をパイクに近付ける。そして、
「君だけなの? あの人と、一緒にいた白い子は?」
「あっち~」
パイクが片
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます