第79話 この空で最も自由な翼

 翼があってもまともに飛べる個体は少ないらしく、小浮遊島群オルタンシアを埋め尽くさんとしている地上型の怪物モンスターが数千という数なのに対して、飛行型は二百に届くか届かないかといったところ。


 それが、迂闊うかつにも、細長い群れを成して飛んでいたため、スピア会心の砲撃、そのたった一撃でおよそ半数近くも消滅させるか撃墜する事ができた。


 とはいえ、楽観はできない。


 それは、砲撃を回避できなかった怪物モンスターのほとんどが、何とか飛べる程度のキマイラと、三つ以上の頭で身体の主導権を争うため咄嗟とっさの行動が遅れる鳥型のケルベロスで、よりたくみに飛ぶ事ができる鳥型オルトロスがかなり、鳥型スピンクスがほぼ数を減らさずに残っているからだ。


 その上、群れを成していたそれらが、蜘蛛くもの子をらすようにばらけた。


 あとはもう各個撃破するしかない。


 そして、空中戦が始まってしまえば、空を飛ぶ事ができない自分には何も教えられない。自分にできる事は、ただスピアを信じて頼る事だけ――ランスはそう思っていたのだが……


「グルルルルッ」


 ごしゅじんを背に乗せて一緒に飛んでいる体長10メートル程の翼竜スピアは、しつこく追い回してくるたかふくろうの頭を有する鳥型キマイラと、巨大な禿鷹ハゲタカのようなスピンクスが後ろから放った攻撃をバレルロールして回避しつつ、付近を通過した浮遊島の陰から飛び掛かってきた小癪こしゃくなキマイラの爪を咄嗟とっさに身をよじって強引にかわし、油断なく周囲を見回しながら苛立いらだたしげにうなり声を漏らした。


 怪物共は、複数ある頭が口を開けば、炎弾を、雷撃を、氷槍を発射し、火炎を、吹雪を、毒霧を放射し、あわよくば足の鉤爪で引き裂こうと体当り気味に仕掛けてくる。連携をとる事もなく、四方八方から次々と、自分がはずした攻撃が何所どこへ向かいどれ程の被害をもたらすかなど考えもせず、好き勝手に。


 それに対して、スピアは、ただでさえ浮かんでいる無数のデカい岩の間の空は狭苦しいのに、そこでひしめく鬱陶うっとうしい怪物共を避けながら飛ばねばならず、射線上に浮遊島は存在しないか、撃破した怪物が選手村や試合会場に落ちないかを気にして思うように攻撃できない上、自分も敵も縦横無尽に飛び回っているため思うように当たらない。不自由をいられている上、それで更に苛立たされる。


 そして、たまたま目に付いた、鳥の身体に3種の獣の頭部を有するキマイラを狙い、自分の周りに浮かべている攻撃用ビットのような六つの光の玉の一つから【光子力線】を発射――する直前、


「きゅおっ!?」


 選手村からの対空砲火、複数名が同時に行使したものと思われる【焔の投槍フレイムランス】の一群に気付いたキマイラが想定外の回避行動をとった事で照準がはずれたため、咄嗟とっさに撃つのをやめた――だけではなく、その【フレイムランス】が自分のほうへ飛んできたので慌てて回避し、


「グルルルルッ」


 更に苛立ちがつのっていく。


「…………」


 ランスは、そんなスピアの様子を見ていて…………ふと思い出した。


 これは、今伝えなければならない。戦闘中だが、【精神感応】でなら一瞬で伝えられる。


 だがしかし、ランスは、相棒の背をでつつ、あえて、スピア、と呼びかけ、そして訊いた。


「――?」

「~~~~ッ!?」


 ごしゅじんの口から出たとは思えない言葉に、募っていた苛立ちが吹っ飛ぶほど驚いたスピアは、あらんかぎりに目を見開き、バタバタと羽ばたきまでみだし、動揺したせいで【光子操作】の制御に失敗し、自分の周りに浮かべていた光の玉が消えてしまった。


 そこへ、鷹と梟の頭を有する鳥型キマイラと禿鷹のようなスピンクスが追い付いてきて――スピアは迷わず逃げ出した。


 この動揺をしずめなければとても空中戦などできない。


 スピアは、余計な事は一切考えず全力で飛び、キマイラとスピンクスをぶっちぎって戦闘空域からの離脱し、オルタンシアの外へ飛び出した。


 その周囲をめぐる軌道で滑空し、飛行を安定させて、ふぅ、と一つ息をつく。それから振り返って、背中のごしゅじんに、いったいどういうつもりなのかと少し非難がましい目を向けるスピア。


 それに対して、ランスは、下ろしていた〔万里眼鏡マルチスコープ〕のプレートを鉄兜の目庇まびさしのように、カシャンッ、と押し上げて、相棒スピアの目を見詰めながら、


「師匠が言ってたんだ。――〝戦いを楽しむのは悪い事じゃない〟と」


 求められるのは結果。ゆえに、それさえ示せば、極論、過程はどうでも良い。――ならば、楽しんで何が悪い。どうせ成さねばならない事なら、嫌々やるより楽しんでやる方が余程よほどましだ、と。


 師匠はそう言っていた――が、


「俺は、そうは思わない――」


 何故なら、戦いを楽しいと思った事が、楽しみたいと思った事が、一度もないから。


 だからこそ今まで忘れていたのだが、スピアらしくない、不自由で窮屈きゅうくつな飛び方を見ていて思い出した。


「――でも、今は……少し、分かったような気がする」


 スピアの背を撫でながら、語り掛けるランス。


 気を引き締め、真剣に、真摯に、依頼にんむに取り組む――それは間違いなく正しい。


 しかし、つとめてそうしようとする事で、本来持っている能力を十全に発揮できず、目的達成のさまたげとなっている。それでは本末転倒と言わざるを得ない。


 ランスは純白の体毛に包まれた相棒の背を撫でつつ、もう一度、スピア、と呼びかけ、そして告げた。


 自分には無理だけれど、スピアにならできる。だから――


「――思いっきり楽しめ」


 そんなごしゅじんの言葉に、スピアは躰をブルブルと震わせて…………進路変更。


 向かう先は、不自由を強いられ、散々イライラさせられた小浮遊島群きゅうくつなそら


 だがしかし――


 グォオォオオオオオオオオオオォ――――~ッッッ!!!!


 空の敵は全て任せろ、そんな気迫が込められた咆吼がオルタンシア内の大気を震撼しんかんさせた。




 先制の砲撃が成功したからだろう。スピアの念頭には、ずっと〝撃ち落とす〟という意識があった。


 だが、今はもう、全力で思うがままに〝飛ぶ〟――そう決めたらしい。


 ならば、攻撃は自分の役目。


 しかし、スピアが気にしていたように、自分もまた、まだまだ未熟で射程を思うように調節できないため〝硬い稲妻カラドボルグ〟は打てない。


 だが、手段はある。後の事を考えると使わずに済ませたかったのだが、致し方ない。


 覚悟を決めたランスは、〔万里眼鏡〕のプレートを額に上げたまま、バッ、と両腕を左右へ広げ、


(――〝来い〟)


 召喚に応じて出現し、その両手に装着されたのは、――指先から肘までを覆う神秘的な黄金の甲拳ガントレット


 それは、天空城の宝物庫で眠っていた四つの神器の一つ、


「我がひとみから逃れる事あたわず――」


 その真名は――


「――〔射殺す眼光ブリューナク〕」


 力が解放された途端、黄金の甲拳が太陽のような光輝を帯び、次の瞬間には肘のほうから5本の指先へ向かって収束し――発射準備完了。


(――兵は神速を貴ぶ)


 スピアは、霊力で身体能力を強化して力強く羽ばたき、生体力場に加えて風の結界をまとい、まるで急な曲道カーブが連続する非常に難しいコースで一周あたりの所要時間ラップタイムを更新しようとする競技用自動車運転手カーレーサーが、ただただアクセルを踏み込むのではなく、巧みな減速ブレーキング変速ギアチェンジを駆使するように、緩急自在、縦横無尽に小浮遊島群の中を飛び回り、進路上コースに飛び出してきた愚かな怪物共を、情け容赦なく強固な二重の力場でね飛ばして突き進む。


 その接触した瞬間、または慌てて回避した怪物とすれ違う一瞬、主観時間を本来の速度域に戻したランスの眼球が、怪物の姿を次々と捕捉し…………その数が10に達した時、両手の全ての指先から光弾が発射された。


 その速度は準光速。それぞれ空中に異なる10の軌道を描いて全弾直撃。


 光弾一つ一つの大きさは炭酸飲料ラムネびんに入っているビー玉ほどだが、準光速というスピードが生み出した運動エネルギーそのものがダメージとなり、怪物共を木っ端微塵に爆散させた。


 これが、神器〔射殺す眼光ブリューナク〕の能力の一つ。


 一度でもその姿を見て照準を固定すれば、対象がどこまで逃げても、遮蔽物の陰に隠れて視界に入っていなくても、発射された光弾が準光速で追尾し、確実に命中する。


 攻撃対象を肉眼ではっきり認識して焦点を合わせなければならないため、本来であれば、姿や輪郭りんかくがあいまいになる夜間、それも、高速移動中にすれ違った一瞬ちらっと見えた程度では、照準を固定ロックオンする事ができない。


 だが、今はオルタンシアの屋外と各試合会場に存在する全ての照明器具が点灯しているため、明かりは十分。そして、特化修練によって速力に特化し、余人とではんでいる速度域が違うランスであれば、その一瞬ではっきりと攻撃対象を認識し、焦点を合わせて着弾点を定める事ができる。


「…………」


 光弾発射後、甲拳が再度光輝を纏い、それが指先に収束して発射可能になるまで、およそ8秒かかった。


 今のランスの主観時間ではかなり長く感じるが、これも致し方ない。


「きゅっ きゅうっ きゅぅうぅ~っ」


 まるで欲求不満を解消しようとするかのように、のびのびと飛び回るスピア。


 当然、追ってくる怪物がおり、攻撃してくる怪物がいる。


 しかし、それで苛立っていたのが一転、今は歯牙にもかけず軽やかに翻弄ほんろうし、自分に向かって発射される炎弾を、雷撃を、氷槍を、放射される火炎を、吹雪を、毒霧を、あわよくば足の鉤爪で引き裂こうと体当り気味に仕掛けてくる飛行可能なキマイラすら、まるで遊戯設備アトラクションの仕掛けであるかのように楽しみ、ことごとく華麗にかわしてせた。


 一方、そんな翼竜に騎乗しているランスは、まさに見敵必殺。視線を縦横にはしらせ、左右を交互に5発ずつ、ただただ淡々と光弾を発射して怪物共を駆逐して行く。


 それから程なくして、思いっきり飛ぶ事に満足したらしいスピアも攻撃に転じ始めた。


 その方法は、双方が動き回っている状態ではまだ上手く当てられない遠距離射撃ではなく、空中での近接戦闘。


 手始めに、全力での飛行中、唐突に躰を起した。すると、空気抵抗が一気に増した事で急激に減速し、追尾してきていた翼を有する獅子のようなスピンクスが追突しそうになり――そこへ絶妙なタイミングで後ろ回し蹴りのような〝竜尾衝しっぽアタック〟を叩き込む。


 肉が潰れて骨が砕ける生々しい音を掻き消す豪快な打撃音が響き渡り、錐揉きりもみして吹っ飛んだスピンクスは、その先にあった浮遊島の側面、断崖だんがいに激突して破裂し、絶壁のシミとなった。


 次は、選手村の上空で停止ホバリングし、空対地攻撃を仕掛けようとしていた鳥類の身体に鷹の頭を有するオルトロス。


 スピアは、やらせるものか、とそのオルトロスへ向かって急加速。十分に勢いを付けてから片方の翼手で、パンッ、と空を打ったその反動で躰を錐揉み回転させ、オルトロスの背後を通過し様に、捷勁法〝顕刃〟の応用、勁力の刃を爪ではなく翼に纏わせた〝竜翼斬〟で、見事、二つの鷹の首を一撃でね飛ばした。


 ある時は、自慢の脚力とごしゅじん直伝の捷勁法〝踏空〟を駆使し、水平飛行から唐突に空中を蹴って飛び上がると跳び横蹴りをぶちかましてスピンクスの首をへし折り、またある時は、とある浮遊島の側面に向かって突っ込み、躰をひねって断崖に着地、そのまま絶壁を駆けて猛追してきた怪物が頭から岩壁に突っ込むのを尻目に跳躍し、襲い掛かってこようとしていた鳥の身体に狼の頭部を有するケルベロスにかかと落としのような痛烈な蹴りを見舞う。ドゴォオンッ、と砲声のような打撃音が響き渡り、背骨と翼をへし折られたケルベロスは砲弾のような速度でとある試合会場脇の空き地に墜落し、その後、二度と起き上がる事はなかった。


 まるで対戦型格闘ゲームカクゲーの多段ヒットする対空技か空中コンボのような動きで、怪物共を鎧袖一触にするスピアだが、危ない場面が全くなかった訳ではない。


「――傍若無人ぼうじゃくぶじんな振る舞いもそこまでだッ!!」


 そうえて白い翼竜を狙い、両手を突き出したのは、背の皮膜の翼を羽ばたかせて空へ上がってきた下半身が蛇の女怪――デルピュネ。


 その存在に気付いたスピアが方向転換して迎え撃とうとするが、向こうの術が完成するほうが早い――が、その背に乗っているランスの行動のほうが更に速かった。


 片手から発射された5発の光弾が、こちらに向けられた双掌の前で魔法陣が完成されるより先に、デルピュネの眉間、喉、心臓、鳩尾、臍下丹田に直撃。それで上半身が消し飛び、どうやらコア――高い不死性を獲得した怪人の本体ともいえる器官も消滅したらしく、残っていた蛇の下半身が瞬く間にち果てた。


 それ以上に危なかったのが、ケートゥスの待ち伏せ。


 下半身は象、上半身はそれに見合った筋骨隆々な巨漢で、甲冑のような生体装甲を纏うという武闘派な外見とは裏腹に、飛行ルートを予測してとある浮遊島の縁で待ち構え、遅延術式を用い、更には隠蔽術式まで緻密に組み込んで、既に発動可能な状態で待機させ、完成している魔法陣を隠し…………目障りな白い翼竜が目の前を通り過ぎようとしたその時、高位攻性法呪を起動。隠蔽が解除されると同時に魔法陣が光を放ち――それを突き破って象の巨体に光の槍が突き刺さった。


 その光の槍の正体は、ランスが行使した〔射殺す眼光ブリューナク〕のもう一つの能力。


 五つの光弾は、まとめてにぎり込む事で一つに収束し、顕現するのは光の投槍。追尾能力はなく、視線が通っていなければ、つまり、相手の姿が見えていなければ放てない。


 だが、その速度は光速。


 光槍が描く軌道は一直線。ランスが投じるのと命中するのはほぼ同時。霊威の塊であり光の速さが生み出す運動エネルギーが破壊力に転化され、直撃を受けたケートゥスは内側から破裂するように消滅し、浮遊島の縁が大きくえぐられるように消し飛んだ。


 最大限に仕事を楽しむ白い翼竜ドラゴンは、天で舞うが如く、自由に羽ばたき、風を操り、宙でね、空でおどるが如く、打ち払い、斬り裂き、蹴り飛ばして怪物共をほふり、真剣に仕事と向き合い真摯に取り組む槍使いの竜飼師ドラゴンブリーダーは、騎竜を駆る竜騎士を見慣れている聖竜騎士団の団員達が、かくんっ、と思わずあごを落し、開いた口がふさがらないほど無茶苦茶な機動を行なっても、それをものともせず淡々と光弾や光槍を繰り出して敵を討ち滅ぼす。


 そうして、近寄る異形、目に付く怪物を片っ端から駆逐して行き…………ふと気付くと、鬱陶うっとうしいほどひしめいていた飛行型モンスターの姿が一つとして見当たらなくなっていた。


 しかし、まだ終わりではない。


 スピアが顔を向けた先にあるのは、それぞれに試合会場が乗っているだけの規模が小さな浮遊島が密集している一角、まるで葡萄ブドウふさのよう場所。


 そこに、残りの敵が、小浮遊島を遮蔽物として利用し、身を隠しつつ遠距離攻撃を仕掛けてきていた小賢こざかしい怪物共がひそんでいる。


「…………?」


 それが分かっていながら、おもむろに空中で停止ホバリングするスピア。


 どうやら、そこをどう攻略するか考えて……いや、思い付いた二つの方法、そのどちらにするか迷っているらしい。それも、既に一方へかたむいているが、それをやめてより安全なほうを選択すべきかとなやんでいる。だが、それは――


「迷うような事じゃない」

「――――っ!」


 たった一言。それで驚くほど気分が晴れ、迷いを振り払ったスピアは、まなじりを決して風を纏い、身体能力を最大限に強化して、――〝踏空〟で全力跳躍ッ!! 音の壁を突き抜けた事で生じた衝撃波の轟音が響き渡り、の形をした水蒸気くもを後に残してその姿が掻き消えた。


 本来であれば、S字カーブやクランクを進む車のように速度を落とすべき場所。しかし、鼻先から尻尾の先までピンッと躰を伸ばして翼をたたみ、まるで一本の投槍のように密集地帯へ飛び込んだスピアは、減速せず、そのまま絶妙なタイミングで躰を横へ回転ローリングさせて常に自分のお腹側が浮遊島のほうへ向くようにして背のごしゅじんをかばい、時にはお腹がかすりそうな程の至近距離をすり抜け――ランスは顔を小刻みに、ひとみを凄まじい速さで動かし続ける。


 そして、待ち構えていた怪物共が攻撃するいとまを与えず、針の穴を抜けるような狭いコースを、シュッ、と一直線にけ抜け、密集地帯をあっと言う間に通過した――直後、バッ、と閉じたままだった翼を広げた相棒の背で、ランスは、前を向いたまま躰を前傾させ、バッ、と後ろへ向かって腕を、十指を伸ばして光弾を発射。


 目視ほそくした怪物は8体。6体には1発ずつ、比較的大きかった2体には2発ずつお見舞いし、当然、その全てを撃破した。


 これでオルタンシアの空にあった怪物の姿は全て消え、上がってくる怪人の姿はなく、今のところ追加はない。


 ならば――


「――次だ」


 ミスティの報告によると、今も各所で行われている戦闘で、あるいはパイクが施した【庇護の紋章】に釣られて連絡橋から飛び降り、多少は減ってもいるそうなのだが、それ以上の速さで召喚されて増え続けており、その数は既に1万を超えてなお増加中との事。


 可及的速やかに敵の増援を断たなければならない。


 そこで、ランスはスピアに、エキドナがいる大円形闘技場――ではなく、選手村の付近で地上型モンスターがいない会場へ降りるよう指示した。


 選手村のほうへ飛び、見付けたそこへ向かう。――その途中、


「ごしゅじん たのしかった?」


 スピアは楽しかったのだろう。とてもすっきりした顔でそう訊かれたランスは、ほんの少しだけ頬をゆるめ、


「しんどい」


 そう言ってちょっとだけ眉尻を下げた。


 そんなごしゅじんを見て躰を揺らし、楽しそうに笑うスピア。


 しかし、それも束の間、目的地に近付くと気持ちを引き締め、とある屋外型の試合会場へ向かって降りて行った。

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