働かされる日常

@rurinotama

第1話

仕事と家事におわれる毎日。側から見れば、恵まれた環境に見える。何が不満なのか。子供と旦那と家まである。何かが足りない?何が満たされない?

見えない不満が子供へ向けられる。


旦那は工場勤務の為に交代制で夜勤もある。必然的に私と子供の2人だけの時間も多い。旦那と話す時間もない。話しても旦那は答えない。携帯ゲームかテレビをみている。子供も旦那によく似ている。帰ってくれば携帯かテレビをみている。旦那がいなくても、旦那を見ているようだ。旦那に言えない不満、あんな大人したくないといいか気持ちがますます子供へ向いてしまう。叱るというより叫びに近い怒り方。どんどんエスカレートしていく。しまいには手が出る。家の外に出すと脅す始末。分かっていても自分が止められない。


旦那とは夫婦生活がない。ただの同居人。彼はATM。確かに性的な魅力を感じて結婚したわけではない。もう恋愛したくなかったから、結婚したかったのがホンネ。若い時の燃え上がるような身を焦がすような恋愛なんてしていない。とりあえず、結婚相手なのだ。でもここにきて、私は妻なのか?母なのか?もう女ではないのか?

旦那には言えない。離婚するだけの覚悟はないからだ。旦那からの愛情は感じられない。今からも旦那の収入は必要だ。もし、離婚してもなんとかやっていけるだろう。しかし、子供には人並みの生活をさせたい。私のワガママで離婚はできない。こういう気持ちが熟年離婚に繋がるのだろう。子供さえ独り立ちさせてしまえば、気の合わない旦那を捨て、自分の人生を楽しめる。今現在、旦那が倒れても介護する気持ちにはきっとなれない。出来る事ならそのまま離婚したい。離婚して自由になりたい。そんな思いを押し殺したまま生活を送る。


旦那がここ最近忙しくいつ帰って寝ているのかわからない。食事は作っておいていれば食べている。子供が起きている時間にはまずいない。そんな日が続いたある日、珍しく旦那が早く帰ってきた。子供は喜ぶ。寝る頃になって、旦那がいる事に興奮した子供が騒いで寝ない。寝かせろと言われ、なんとか寝かしつけようとする。結局、ぐずりながらも寝かしつけた。その間、旦那は携帯をいじっている。寝かしつけた後、旦那にいる時くらい育児も手伝って欲しいと話す。返答はない。小さくため息をついて、旦那に背を向けた。次の瞬間、頭のうしろに鈍い音がした。何かよくわからないまま、鈍い音が続く。びっくりして身をよじると頭のうしろをめがけて、旦那が拳をふりおろしていたのが見えた。そしてそのまま体を起こし子供の方へ逃げた。旦那は無言のまま拳を振り下ろす。また鈍い音がする。次は首だ。拳は重く私は子供に倒れこんだ。しかし、旦那は止まらない。子供が起き、泣き始めた。旦那が子供の足を踏んだのだ。やっと旦那が我に帰り、拳が止まった。その隙に子供を抱きかかえて、部屋を出た。そしてそのまま車へ逃げた。手が震え、頭を支える首もガタガタと震えている。でも逃げなくては…車を出し、コンビニの駐車場へ。まだ震えは止まらない。子供も泣いている。明日も仕事だ。子供を抱きしめながら、シートを倒した。まだ何が起きたのかわからない。まず子供を落ち着かせなくては…泣き噦る子供が寝たのは1時間後…そこから自分の身に何が起きたのか考え始める。まず当分家には帰れない。子供といれる場所の確保をしなくては、長期間となるとお金もかかるだろう。自分でも意外と冷静だ。携帯で子供の保育園と職場の近くの宿泊施設を検索する。職場近くにウィークリーマンションがあった。1週間で3万弱、ビジネスホテルよりは安いか?広くはないが、キッチンもあるし炊事も出来そうだ。空き部屋もあり予約が出来た。着のみ着のまま出てきてしまった、子供の靴さえない。明日は保育園にも行けない。仕事を休んで準備をしなくてはいけない。

まず、明日の予定を立てる。朝イチで服を買い、ウィークリーマンションへチェックインする。職場にも保育園にも電話しなくてはいけない。職場と保育園には体調不良と伝えよう。旦那が来たらと考えると恐ろしい。旦那の事はなんと説明しよう…離婚?別居?

途方にくれつつ、携帯で 離婚 別居 などキーワード検索する。その中で旦那にされた事は所謂DVと言うものだと気づく。そのまま進んでいくとシェルターなる施設紹介にたどり着いた。DVから逃れ身を隠す事が出来るようだが、子供とは一緒にはいれないようだ。子供はまた別の施設へ預けられるようだ。子供と離れる訳にはいかない。しかしお金の心配もある。どこへ相談するのが正しいのか。悩んでいるうちに子供が泣き始めた、さっきの出来事を思い出しているようだ『パパ止めて』と泣いている。『大丈夫だよ』と車から降りてゆらゆらしながら寝かしつける。自分にも呪文のように言い聞かせる。私はこの子がいる、強くならなければと。結局この日は子供の寝言泣きが続き、神経が昂ぶっていて私は寝れなかった。

次の日、保育園と仕事はやすんだ。風邪という事にした。でも本当になんだか怠い。子供の3日分程度の服、靴、オムツを買いウィークリーマンションへ向かう。近くの駐車場は別料金だ。

割引して貰えるが毎日は止めれない。職場に止めて、歩くしかないようだ。幸い歩けない距離ではない。でも今日はもう動きたくない。ウィークリーマンションの下にコンビニがあった。いつもは我慢させているお菓子やパンを買い、ウィークリーマンションへ戻る。室内は写真より古びた感じがするが仕方がない。やっと一息つくと、めまいがしてきた。なんだか気持ち悪い。子供には子供向け番組を見せ、パンとりんごジュースを預けて横になる。なんだか頭と首が落ち着かない。枕のせいか?姿勢が落ち着かず、ゴロゴロするが落ち着かない。子供はパンを食べると私の隣へ潜り込み、いつものように抱っこして寝始めた。やっと私も眠りにつけた。

起きるともう午後3時半だった。子供もまだ寝ている。体を起こすとやはり頭が痛く、首が重い、そして動かない事に気づく、首が思うように回らないのだ。なんとなく手も痺れている。寝ている格好が悪かったのか?

子供にコンビニの物ばかり食べさせる訳にはいかない。キッチンは狭く、コンロはIHが一つだけ、流しも小さい。学生時代に使ったレオパレスを思い出した。その時は彼氏と一緒に狭いキッチンに並ぶのが楽しかった。今は子供の為にキッチンへ立つ。身支度をしていると子供が起きた、近くのデパートへ買い物へ行く。歩いて行ける距離にはスーパーがない。デパートは割高な気がするが、車を運転する気になれない。デパートへいき、子供の好きなうどんの材料とお惣菜を買う。ついでに子供向けの雑誌を買う。おもちゃさえも全て置いてきてしまった。何もないのだ。

うどんを作るだけなのに慣れないキッチンで時間がかかってしまった。子供は足元で買った本を見ている。字は読めないが好きなキャラクターがいっぱいの本にページが進む。食器は少しだけ備え付けの物があったがカレー皿のような器しかなかった。そして子供はフルーツを食べるようなフォークでうどんを食べた。食器も少しは買わないといけないか、紙皿の方がいいだろうか?子供と一緒にうどんを食べたが思うように麺が啜れない、飲み込みにくい感じがした。半分くらいは食べただろうか?子供には見えないようにコンビニのビニール袋へうどんを捨てた。2人でお風呂に入った。もちろんユニットバスだ。狭いが子供は狭さとカーテンがある事が楽しいようだった。私は自分の頭を洗うのが辛く、軽く濡らす程度にした。腕をあげるのが辛いかった。頭にはたんこぶが出来ていた。子供にお風呂上がりアイスを食べさせた。食べながら『パパは来ないの?』と聞かれた。パパはお仕事が忙しくて私達が一緒だと眠れないんだと言い聞かせた。子供を寝かしつけ、これからの事を考えた。離婚するかしないか、DVの証拠を残さない限りは私達には不利な状況になってしまうようだ。DV被害は警察署に相談しなくてはいけないようだ。24時間対応している電話番号が見つかった。電話して今回の経緯を話す。中年のおじさんが淡々と時間の流れを整理しつつ聞いてくれた。何かメモをしつつ聞いているようだ。そして明日の午前中、生活安全課にくるように案内してくれた。

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