「ん、眩しい…?」

 エクスが目を覚ましたのはベットの上だった。その横には椅子に座り涎を垂らして眠っているレイナがいた。

「えーっと、レイナ?」

 申し訳なさそうに声をかけるとレイナは目を覚ましエクスに飛びつく。

「馬鹿! あんな無茶をして! 体は? 痛い所とかおかしな所はない?」

 エクスは自身の体を確かめる。体中痛いし、怠い。節々も痛い。ただ命がどうという感じは全くしなかった。

「うん…体は怠いけど大したことないと思う」

「大したことないってこたぁねぇと思うが無事なんだったらよかったな」

 部屋の入り口にはいつの間にかタオが立っていた。

 エクスは気を失った後の事を三人から聞いた。

 無事にカオスアラジンを調律した事。

 カオス赤ずきんこと黒ずきんは森に帰り森の平和と赤ずきんを見守り続けると言っていた事。

 カオス桃太郎は鬼ヶ島と人間の村との橋渡しを続けると言っていた事。

 カオスシンデレラだけが消滅したと。

「な、なんで…」

 エクスは動揺していた。自分が気を失っている内に事が全て終わってしまっていたのは、三日も寝ていたのだから仕方がない。だが、カオスシンデレラだけがなぜ消滅したのか理解できなかった。

「あの砂漠越えですよ」

 シェインが語ってくれた。

 カオスシンデレラは灼熱の砂漠越えの中、エクスの周りにだけ冷気を送り続けていた事。

 それは極々小規模の灰と絶望のナイトメア。気力(必殺技ゲージ)も無しに使い続けるには命を削る作業に等しい事だったと。

「お前は自分より他人を大切にしすぎる。カオスシンデレラにもそれが分かってた。そんでもってその優しさに甘えさせてもらったお返しだとよ」

 そう消える間際に言って行ったとタオが告げた。

「ワイルドの力を持つ貴方がカオスアラジンを倒す切り札になるって彼女は言ってたの。だからこそ、彼女は命を懸けて貴方の体力の温存に力を削いだのよ」

 エクスは無言だった。暫くした後、もう少し休ませて欲しいと言って頭から布団を被った。


「なぁ良いのかよお嬢本当の事言わなくてよ」

「彼女のお願いでしょ」

「そりゃそうだがよ…」


 本当はカオスシンデレラは消滅などしていなかった。

 カオスアラジンを倒したエクスに駆け寄ったのはレイナだった。無茶をしたのは全員同じ、体力はなくカオスシンデレラは動けなかった。だが同じく動けない筈のレイナは倒れながらもエクスに駆け寄っていた。

 動けなくなったカオスアラジンを宣言通りエクスを除く全員で殴りつけた後、調律が終わり、消えてしまうかと思われた黒ずきん、ランプの魔神の力で呼び出したカオス桃太郎の事はエクスに説明した通りだった。

「私は死んだことにして」

 カオスシンデレラの第一声だった。

「なんで、貴女エクスと結婚したいんじゃなかったの?」

「私の想いは貴女に勝てないって思っちゃったのよ」

 カオスシンデレラは駆け寄ったレイナ、駆け寄れなかった自分。

『勝てない』と思ってしまった。それでもエクスに自分を忘れて欲しくないと。

「私、Sなの、好意を寄せていた女性が自分を助ける為に力を使って死んだ。なんてなったら一生その人の事忘れないと思わない?」

「ひでぇなおい」

「そうよ。私はひどい女なの」

「エクスに本当の事私が言わない保証はないわよ」

「貴女は言わないわ。それで私はエクスと同じ事でも続けるわ。新しいシンデレラを引き取らないで友達にでもなりましょうか。寄り添って、支えてあげて、虐めに負けない強い娘に見守ってあげるわ」

 カオスシンデレラはレイナに近づくとぎゅっと抱きしめる。

「                      」

「えっ」

 レイナの耳元でなにかをそっと呟く。


 振り向きもせず一人ランプの魔神へ町に戻すようにと願いを告げた。


 翌日、エクスは宮殿の中庭にいた。

「ずっと考えてたんだ」

 噴水の枠に腰を掛けているとレイナがやってきて横に座った。

「なにを?」

 レイナが聞き返すと

「いろんなことを。カオスシンデレラにはもっと何かしてあげられたんじゃないかとか、僕にできる事って何だろうとか、僕にもっと力があったら…とかね」

 エクスは泣いていた。カオスアラジンが調律され、優しい日差しの中ただ泣いていた。

「エクス…貴方カオスシンデレラのことが好きだったの?」

 目を伏せレイナはそう呟くように聞く。

「分からない、僕の居た想区のシンデレラは多分僕の初恋だったんだと思う。でもね、シンデレラはシンデレラでも二人は違う人なんだ」

 前を向いていたエクスが横のレイナに向き直る。

「近しい存在だから、憧れたのかもしれない。好意を寄せられて嬉しいとも思ってたと思うけど、恋って言われると違う気がする」

 レイナは伏せていた目を上げる。エクスと目が合い頬を赤らめる。

「多分、僕が好きになるのは違う人なんだ」

「えっそれって…」

「テンション急上昇です!」

 離れた茂みの中にシェインとタオが隠れて覗いているのが見える。

「タオ! シェイン!」

 珍しくレイナではなくエクスが怒り二人を追いかけだす。頬を赤く染めたままのレイナはカオスシンデレラの言葉を思い出す。


『早く自分の気持ちに素直になりなさい』


 惚れ薬の事もあって悩んでいたレイナは今度は自分の心に問いかけなければならなくなった。

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桃とガラスとお見舞いの籠 @Evol-00

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