砂漠越えは想像以上の過酷さだった。

「ちょっと暑すぎない?」

 レイナの言う通り今までのどの砂漠より暑く感じていた。

「当然であろう。ランプの魔神に命じてお主らが宮殿に着くころには立っているのもやっと程度に体力を削る暑さにするようにしたのだから」

別の想区で聞き覚えのあるカオスアラジンの声だけがあたりに響く。

「どこにいやがる」

「うむ、余は宮殿で、冷えた果実を絞ったドリンク片手に砂漠でヒーヒー言ってるお主らを見て楽しんでいる」

「…ちょっとアイツすっごくムカつくんだけど!」

「なぁ、あんなんでもぶっ殺しちゃダメなのかよ」

 レイナのイラつきに黒ずきんが殺害許可を求める。

「カオスアラジンがムカつくのはいつもの事です」

「大本のカオステラー殺すと流石に想区自体の存在がな? ここは倒し終わった後殴るくらいで許してやれ。な?」

 フォローにならないフォローを入れる。

「カオスアラジン、君は何がしたいのさ」

 エクスはまともな答えが返ってくることを期待して問いかけた。

「余の目的か。ふむ余の目的は暇つぶしだ。余以外の者共が目的の為に苦悩し、足掻き、希望を持ち、その希望が潰えて絶望する。その姿を最良の環境で見る。それが余の現在の愉悦」

「最悪ね」

「最低です」

 レイナとシェインが嫌悪感を現す。

「いいんじゃねぇーか?」

「そうだね。カオスアラジンらしいよ」

 タオとエクスがカオスアラジンを肯定する。

「ちょっと?」

「二人とも正気ですか?」

 レイナとシェインが二人に詰め寄る。だが二人は声を合わせて言い放った。

「「相手がこれほど屑ならば倒すのに何の躊躇も要らないからな」ね」


 砂漠でのヴィランの襲撃は問題なかった。怒りに燃えた四人に敵うヴィランはいなかった。問題だったのはランプの魔神の設定した暑さだった。

「暑いってか熱い…」

 六人の体は日焼けで真っ赤になっていた。

「体力削るんじゃなくてよ…オーブンで焼かれてる気分だぜ…」

 レイナとタオが愚痴る。

「進めばヴィランとの戦闘にオーブンの灼熱地獄、休むと時間経過と灼熱地獄…」

「進むっきゃねぇーだろ。でねぇとあいつを殴れねぇ」

 肩で息を死ながら黒ずきんが応える。

「そうね、結果はどうであれ一矢は報いたいわね」

 汗すら掻かなくなったカオスシンデレラがそれに続く。

「行こう、一矢報いる為じゃない。勝つために先に進もう」

 エクスの言葉に全員が頷き、カオスアラジンの宮殿へ向かって進み始めた。


「ひゃっほーーぅ」

 タオは宮殿に着くと目の前の噴水に飛び込んだ。

「おふざけは禁…」

 レイナはゆっくりと足だけを噴水に入れた。

「おぉぉ、この気温なのに水が冷たいです…」

 シェインは静かにテンションを上げている横で黒ずきんも頭から水をかぶっていた。

「カオスシンデレラ、大丈夫?」

 エクスは噴水の横にあった水瓶から水を持ってきてカオスシンデレラに手渡した。

「あら、ありがとう」

 カオスシンデレラは力なく微笑み水を受け取り口に含む。

「さぁ、みんな決着を付けに行こう」

 噴水の中で涼む四人に向かってエクスは声をかける。

「ほぅ、余の宮殿にまで来てそれほどの元気がまだあるとはな」

「おうよ、タオファミリーを舐めてんじゃねぇ」

 噴水の中からタオが吠える。

「面白い、ならば宮殿の中に来るがよい。余直々に相手をしてやろう」

 正面の扉が開き中から冷気が噴き出す。宮殿の中は涼しいのではない。寒かった。

「外との温度違いすぎだろ!」

 吐く息が白い。真夏のビーチから雪山へ迷い込んだ錯覚に襲われるほどの温度差に体を濡らしたタオ、黒ずきんは体を震わせる。

「外は暑かったてあろう! ここまで辿り着いた褒美として部屋を涼しくしておいてやったぞ」

「性格の悪いあなたの事だもの噴水で水浴びなんてサービスがあった時点でこんなことだろうと思ったわ。『灰と絶望のナイトメア!』」

 コートにマフラーの完全防寒のカオスアラジンをカオスシンデレラの必殺技がヒットして一瞬動きを止める。

「ヘブンズ・ブレイブ!」

 いつの間にかジャック(天空)にコネクトしていたエクスが続けて必殺技を叩き込む。

 コートとマフラーは破れ見慣れたカオスアラジンが姿を現す。

「さ、寒い!! ランプの魔神よ! 部屋の温度を丁度良くせよ!」

 一瞬で部屋の中は暑くも寒くもない温度へと変わる。

「よくもやってくれたな!」

「いや、ぶっ倒しに来たって言ってるのに攻撃されないとでも思ったのかよ」

 カオスアラジンの怒りに黒ずきんが突っ込む。

「うるさい、余は支配者なのだ。貴様らは全員余の所有物なのだ」

 ランプの魔神を呼び出すとカオスアラジンは襲い掛かってきた。

「今まで馬鹿にされた怒り思い知りなさい! コネクト、シェリー・ワルム! 黒魔法ネイキッドメモリー!」

「ただじゃおかねぇ! コネクト、ハインリヒ(天空)! グランド・ロイヤリティ!」

「姉御GJです。コネクト、ラーラ! スケエルの怒り!」

 レイナ、タオ、シェインはコネクトと同時に必殺技を確実に当てる。

「くたばれ! 良い子を諦めた死神!!」

 黒ずきんの鎌がカオスアラジンを吹き飛ばす。

「…効かんなぁ、ランプの魔神に最攻と最硬の力を与えさせた余に対しその程度の攻撃で倒せるとでも…」

「思わないよ!」

 コネクトを解いたエクスがカオスアラジンに飛び掛かり抱き着く。

「なんのつもりだ! 余にそのような趣味はない!」

「コネクト、カオスアラジン!」

 抱き着いたまま開いた空白の書を押し付ける。光に包まれ弾ける様に影が飛ぶとそこにはカオスアラジンが二人いた。

「余がもう一人だと!?」

「最攻と最硬! ぶつかり合ったらどうなるか…カオスアラジン!君だってランプを手にする前は頑張って努力して自分の力で先に進んできたはずなんだ!」

 エクスアラジンは剣を抜き一歩前に出る。

「その因果、僕が断ち切る! 退屈という名の病!!」

 さらにエクスアラジンは三人に分裂し、カオスアラジンへその斬撃を叩き込む。

 カオスアラジンが倒れ、エクスアラジンの剣が砕け散る。そしてその場にエクスアラジンも倒れ込み光に包まれると空白の書が床に転がる。

「エクス!ねぇエクス!!」

 遠退いていく意識の中、エクスの耳に届いていた声の主は…

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