Ⅴ
カオスアラジンの宮殿への道は敵だらけだった。
赤ずきんの小屋の裏手の森を抜けると崖が聳え立ち、そこの洞窟が最初の入り口と言われたが当然ヴィランだらけ。中に入ってからもヴィランが休みなく襲い掛かる。
「そういえばシンデレラは魔法使いに預けたんだろ? 赤ずきんは置いてきて平気だったのかよ?」
何度目かの襲撃を蹴散らし休憩中の事、雑談の中でタオはカオスシンデレラへと質問をする。
「大丈夫よ。あの別邸は魔法使いの名義で、何よりその魔法使いが結界を張ってますから」
今更な質問ではあったが黒ずきんのホッとした気配が伝わる。
「この洞窟を抜ければちょっとした広場がある。そこで一度野営だ。砂漠越えの為に最後のは休息だ」
その気配を誤魔化す為か黒ずきんは先の状況を伝え始める。
「その前にお客さんよ」
「相も変わらずヴィランの団体様がお越しです」
通路の前後からヴィランの大群が押し寄せる。
いくつものコネクトを駆使しヴィランを倒し洞窟を進んでいく。その後も何度となく襲撃を受けるが大した被害もなく順調に洞窟を抜けることに成功した。
「んじゃ、ここで野営だ。元々敵だったんだ。あたしとヤンデレは見張りは分ける。かと言ってその坊主とヤンデレがセットだと安心して休めねぇから却下な」
黒ずきんはマントの中から薪を出して野営の準備をしながら仕切り始める。
「なら、タオ兄と新入りさん、私と黒ずきんさん、姉御とカオスシンデレラさんで」
「ちょっと!?」
「ん、あたしはそれでいい」
シェインの提案にレイナは反論しようとするが早々に黒ずきんに賛成されてしまい反論のタイミングを逃す。
シェインの目的はレイナとカオスシンデレラ、エクスの状況の整理だった。
(姉御はもう少し素直になってくれた方がからかいがいがあるんですけどね)
野営の準備を手伝いながらそんな考えを巡らせていた。
レイナとカオスシンデレラの見張りは沈黙から始まっていた。
「ねぇ、エクスと結婚って本気なの?」
沈黙を破ったのは耐えきれなくなったレイナだった。
「本気って言ったら貴女は応援してくれるの?」
(姉御、そこは渡さないくらい言わないと)
(あん、やっぱあの二人ってそういう関係なのかよ)
(自覚あるのか分かんねぇけど少なくともお嬢は傍から見てて分かりやすいかな)
(………)
シェイン、黒ずきん、タオ、エクスは仮眠も取らずに二人の見張りを見守っていた。覗きではなく、あくまで見守っていた。
「本気なら応援…は出来ない。けど、邪魔もしない。選ぶのはエクス本人なんだから」
(おぉ、テンション急上昇です)
(ありゃあれだな。自分じゃ何も言ってねぇのに自分も選ばれる候補に入ってるって言ってるよな)
(だなぁ…坊主どっち選ぶんだ?)
(選ぶって言われても…)
「空白の書なんてものを持っていると考え方まで空白になるのね」
「なんですって…」
一瞬で険悪なムードが漂う。
「自由があって、仲間を作って、想区を旅してる。貴女には新しい出会いがいくらでもある。けど私には、今、この時しか無いかもしれないのよ!」
カオスシンデレラの瞳には涙が浮かんでいた。
「姉、シンデレラは王子様がいる。切り離されなければ私だって一緒に嫁いでいた…でも、お姉様はお城に嫁ぎ、私はカオスヒーロー?カオステラーとして、化け物として生き続けるのよ…」
レイナは、レイナだけではなく見守っていた四人も黙って聞いていた。
「貴女たちの私たちを見る目も敵を見るそれだった…でも、エクスだけはあの人だけは違った。別の想区の別の私を見ていただけかもしれない。けど、瞳が優しかった!」
沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはやはりレイナだった。
「貴女たちも被害者なのに私たちはいつの間にかカオステラーって言うだけで、敵として見てたのかもしれない」
カオスシンデレラはレイナの言葉を待った。
「けど、今貴女たちと一緒にいてそれが間違ってるって事も分かったわ。それに、貴女たちも仕方がなかったとはいえ…貴女たちって言うか黒ずきんは最初から話し合いじゃなくて帰れですもの。敵対行動だと思うのよね」
(あたしのせいかよ)
(ありゃ確かに敵対行動だろうよ)
(敵だ。とかはっきり言ってたですよ?)
(いや、あれは仕方なかったんだしさ…)
「それもそうね。あのヤンキーずきん一人で頑張りすぎなのよ。私はお姉様が嫁げば独りぼっち、つまりフリー。おじいさんとおばあさんは桃太郎の家族。カオス桃太郎は元々一人。あの子だけは赤ずきんとずっと一緒なのよ」
行動の執着度合いの違いはそこよ。と呟きながら四人が見守る方に目をやる。
(気が付いてますね)
(気が付いてるね)
(ばれてるか)
(あのヤンデレ好き勝手言いやがって…)
「私は家族が欲しい。だからエクスと結婚したい。答えは本気。話し込んでしまったけどそろそろ交代の時間かしら?」
((((!!!))))
驚く四人だったがシェインと黒ずきんはその場に立ち上がる。タオとエクスはしゃがんだまま、バレない様に下がっていく。
「なんでそんなところから立ち上がるのよ? 隠れて盗み聞きしてたんじゃないでしょうね?」
「交代に来たら話し声が聞こえたから盗み聞きしようとしただけです」
「近くにいるのがばれたみたいだから立ったんだよ」
(ナイスだシェイン)
(………)
タオとエクスは少し離れた寝床に戻ってきた。
「なぁ、お前の気持ちはどうなんだ?」
「…分からないんだ」
エクスは正直な気持ちを語った。
「僕の居た想区では僕は空白の書のせいでモブだなんだって誰にも相手にされなかったから」
エクスはタオと目を合わせずに続ける。
「今は空白の書のおかげでみんなと出会えて、旅に出て、一緒にいられるのが嬉しい。どんな理由でも好意を向けられるのもは嬉しいよ」
そう言いながらタオに背を向けて横になる。
「でも、この気持ちをどうすればいいのかはわからないんだ」
違う想区での事とは言えシンデレラに淡い恋心を抱いていたのも事実。違う想区の違うシンデレラとはいえシンデレラから好意を寄せられる事実。初めて向けられる本人の意思、薬などの混ざりっ気のない好意に戸惑っていた。
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