「折り合いがついてるってどういう事?」

「どういうもこういうもねぇさ。優しいお婆様と親愛なる姉様が喰われちまうってのに何もしねぇ猟師に代わってあたしが人喰い狼を退治して群れのボスになってやった。配下にできねぇ熊なんか人に害をなす獣を狩って、木の実なんかも食べて村への被害をなくしてる」

 いつの間にか黒ずきんの後ろに狼の群れが控えていた。

「僕はカオス桃太郎を仲人に鬼姫と婚礼を挙げた。鬼には人の言葉を覚えてもらって人間には出来ない力仕事を頼んでいる。人からは作物とかを代価にもらって協力して田畑を増やしている」

桃太郎の身振りに合わせ鬼たちが姿を現す。

「そこの黒のセリフを使うなら…お姉様は私が引き取ったわ。掃除洗濯炊事に裁縫、何から何まで、姉妹二人で協力してやっているの。お互いに苦手な所を教えあってね」

 シンデレラとカオスシンデレラは頬を付けるようにして抱きしめあう。

「そんなわけで人をヴィランにするでなし、無暗に人も傷つけねぇ」

「村は襲われないし、開拓は鬼の力で進む」

「鬼ヶ島ニハ食ベ物ノ育テ方教エテモラッテルシ、分ケテモモラッテル」

「お姉様は虐げられなくても慈しみに常識や技術、マナーを身に付け、継母たちは虐げることがなくなって心をすり減らさなくてよくなったわ」

 それぞれがそれぞれの良くなった部分を告げる。

「でもそれはストーリーテラーの意思に反しているわ!」

「それはてめぇらが空白の書なんていうジョーカーを持ってるから言える事だ!」

 黒ずきんは大きく手を振り怒気を飛ばす。

「運命の書に書かれているからあたしは狼に食べられなければいけませんか?」

「我々鬼ハ、鬼トイウダケデ討タレナケレバナラナイノデスカ?」

「継母たちは泣きながらわたしを虐げ、わたしは舞踏会まで虐げ続けられなければならないの?」

 赤ずきんが、鬼姫が、シンデレラが涙を浮べ訴える。

「そ、それは…」

「それは運命に縛られない空白の書なんてジョーカーを持ってるてめぇらの傲慢だ」

「…違う…」

 黒ずきんにエクスが呟く。

「役割を与えられた運命の書を持つ君たちの苦しみが全部分かるとは言えない。でも、君たちも空白の書を持っている僕らの経験してきた辛さは全部わかるとは言えないはずだ!」

 エクスは黒ずきんに向かって叫んだ。

「おぅ、分かんねぇよ?全く一切合切、これっぼっちも。理解しようともしたいとも思わねぇよ」

「えっ?」

 きっぱりとした相互理解の拒否。気持ちを真直ぐにぶつければ話し合えると、少なくとも少しは歩み寄れると思っていたエクスは茫然とした。

「言ったろ?折り合いはついてこっちはこっちで幸せになる努力ってのをしてるんだ。調律の巫女一行だか一味だか興味はねぇし頼らねぇってか邪魔だ」

「でも、それじゃこの想区が壊れてしまう可能性だってあるのよ?」

 黒ずきんたちの拒絶にレイナが反応する。

「上等じゃねぇーか。世界が崩壊するならそれはそれで構わねぇよ。なんでうちの姉様とお婆様だけが喰い殺されなきゃいけない? 鬼ヶ島の鬼は無駄に村を襲って被害を出してその報復とばかりに討たれなきゃなんない? 虐げるなんて上品な言葉は使わねぇ。なんでシンデレラは虐められなきゃ王子に会えねぇ? そうしなければ世界が成立しないってんならそれは世界が間違ってる! そんな世界なら壊れればいい!」

 黒ずきんはレイナ、エクス、タオ、シェインを順に睨みつける。

「けど、黒ずきん。それは君だけの意思じゃないの?」

 エクスはシンデレラを見つめる。

「違います。これはここにいるわたしたちの総意です」

 タオとシェインが桃太郎と鬼姫を見るが二人とも力強く頷く。

「そういうこった。それでも調律して姉様たちを元の運命に戻そうってんならてめぇらはこの世界の敵だ」

 エクスもレイナもタオとシェインも言葉が続けられない。

「返答がねぇなら敵ってことで構わねぇな…やっちまいな!」

 黒ずきんが手をあげ振り下ろすと一斉に狼たちが襲い掛かってきた。

「お嬢、逃げるぞ!」

「えっでも…」

「姉御、でもじゃないです」

「そうだよ!どっちが正しいかなんて分からないでも、この想区が崩壊していいとも思えない」

 タオ、シェインがレイナの手を取り立ち上がらせる。

「タオ、僕が道を作る。だからレイナを連れて逃げて!」

 エクスが導きの栞を空白の書に挟もうとしながら叫ぶ。

「馬鹿野郎、お前がお嬢に付いてろ!ここはオレが…」

「ダメです。間に合いません。ここは新入りさんの言う通り姉御を逃がして下さい」

 そう言ってタオにレイナの体を預けシェインも栞を手に取る。

「私じゃ新入りさんの背中を守れても、姉御は背負って走れませんから」

 いつの間にか狼だけではなく鬼までが襲い掛かろうとしていた。

 エクスしたコネクトヒーローの必殺技が敵を薙ぎ倒す。

「くっ、絶対に死ぬな!」

「えっ嘘っ!」

 タオはレイナを肩に担ぎエクスとシェインの開いた道を駆け抜ける。

「何とか二人は抜けれましたか。新入りさん、隙を見て逃げますよ」

「うん、なんとしても二人と合流しないとね」

 タオとレイナが逃げたのを確認してコネクトを解いたエクスとシェインは背中合わせに敵を見る。

「一応言っといてやる。逃げ場はねぇ。この想区自体がてめぇらの敵だ」

「ナンセンスです。行った想区で周りが敵だらけでない事が稀ですから」

 シェインはやれやれといった様に首を振る。

 鬼と狼に囲まれたまま睨み合いが続く。

「…コネクト・ジャック! ジャイアント・ブレイブ!!」

 沈黙を破ったのはエクスだった。ジャックをコネクトして鬼や狼ではなくその手前の地面に向かって必殺技を放った。

「土煙に乗じて逃げて…」

 爆発の中、ジャック(エクス)の呟きにシェインは土煙から飛び出した。無言で、自身が一番手薄と思った方に向かい飛び出し駆け出した。

 狼は赤ずきんと黒ずきんを。鬼は桃太郎と鬼姫を守るように移動していた為にシェインは妨害も受けずに囲いを抜け出した。

「…土埃でドレスが汚れてしまったわ」

 カオスシンデレラはシンデレラを庇う様に立っていた。

「…それでてめぇは仲間を逃がしてご満足ってか?」

 土煙がはれるとそこには肩で息をするエクスが座り込んでいた。

「違うよ、出来れば僕も逃げたかったんだけどね。コネクトして準備も無しに技を出したらコネクトが解けて動けなかったんだ…」

 それだけ言うとエクスはその場に倒れた。土煙の中、シェインが逃げ出せたのは確認していた。レイナとタオも逃がすことができた。遠のく意識の中エクスは笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る