「おいおいおい、毎度の事ながら森はどこも大して変わらないけどよあれは…」

 タオ・ファミリー大将ことタオが森の中から指さす方向には…

「どーみても鬼ヶ島です」

 タオの妹分シェインが言葉を繋げる。

「でも、あっちの城に見覚えがあるよ…」

 タオ・ファミリーの新入りことエクスが指さす方向には…

「新入りさんのいた想区の通称・シンデレラ城ですね」

 これまたシェインが言葉を繋げる。

「えーっと…どういう事?桃太郎の想区とシンデレラの想区が重なってるの?」

 ポンコツ姫・レイナが疑問を口にするが答えられる者はこの場にいない。

「ちょっと、誰か何か言ってよ!」

「姉御に分からないものが私たちに分かるわけないです。分かるのは鬼ヶ島とシンデレラ城が見えて二つの想区が重なってるかもしれない。ただそれだけです」

 辺りを見渡しながらシェインが答える。

「あー、訂正します」

 一瞬の沈黙の後、シェインが改めて口を開く。

「なに?他に何か分かったの?」

 シェインはゆっくりとエクス、レイナ、タオの背後を指さす。

「狼です。桃太郎とシンデレラに加え赤ずきんも重なってるみたいです」

 狼たちは唸り声をあげながら襲い掛かってくる。

 エクスたちは導きの栞を駆使し襲い来る狼たちを撃退していく。

 最後の狼を撃退すると四人コネクトを解き、肩で息をしてその場に腰を落とす。

「やたらと数が多くなかったか…」

「そうね…さすがに疲れたわ…」

「個別の強さはそうでもなくても数が多いっていうのはそれだけで戦力だよね…」

「お疲れのところですがそこに誰かいます」

 戦いの疲れを見せる中、同じく座り込むシェインの言葉に一同が視線を向ける。

 そこには見覚えのある姿、赤ずきんと黒ずきんこと、カオス・赤ずきんが立っていた。

「調律の巫女様ご一行ですよね」と赤ずきん。

「調律の巫女一味だよな?さっさと失せろ」と黒ずきん。

「ちょ、ちょっとまって!なんでカオステラーとそのヒーロー?ヒロイン?が一緒にいるのよ?」

 慌てたのはレイナだった。確かに黒ずきんからはカオステラーの気配がする。なんの想区かは分からないが赤ずきんが想区を代表出来るだけの主人公格であるのは過去に廻った想区でも実証済みであるからだ。

「姉御、ここで黒ずきんを調律すればこの想区は落ち着くので?」

「分からない…この子以外にもカオステラーの気配はあるの…でもこの子がカオステラーなのも間違いないの」

 シェインの問いかけにレイナは頭を振る。

「てぇことはなにか、カオステラーが複数いるってことかよ」

 タオはありえねぇと言いたげな顔で黒ずきんを睨む。

「そう睨むなって、ここはちょいとばっかし特別ってやつでね」

 黒ずきんが語りながら近づいてくる。

「そうだなぁ…名付けるなら、『全集Ⅰの想区』ってところか?」

「全集…?」

 エクスが呟く。

「そうそう。絵本と同じさ。一つの本に一つの物語とは限らねぇ。頁を捲った次の頁にゃ新たな主人公がいるって寸法さ」

 黒ずきんは大げさな身振りを加えながら語り続ける。

「っても、ここには三つの物語しかありゃしねぇ。原典がねぇと生まれねぇのがカオステラーだ。すなわちあたしより先に生まれてる姉のこの場所!赤ずきんの想区」

 大きく手を広げ森の木々の間から遠くに見える鬼ヶ島を見据えるとそちらの木の陰から少年と少女が現れる。

「僕ら桃太郎の想区」

「桃太郎…」

「鬼姫…」

 タオとシェインが同時に呟く。

「カオス桃太郎じゃないのね?」

「彼は肥りすぎて…ここまで来るのは面倒だって…」

 桃太郎は申し訳なさそうに答える。

「なら…」

 エクスが呟きシンデレラの城の方を向くと。

「わたしたちシンデレラの想区」

 そこにはシンデレラとカオスシンデレラが立っていた。

 そして三人の主人公と三人のカオステラーは声を揃えて四人に告げた。

「我々は折り合いを付けています。そして願いはただ一つ。何もせずに去って下さい」

 静かに、確かな拒絶の意思を。

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