第5話


「これから忙しくなるから、あんま連絡できないと思うけど」

と、言いながら帰り際に、携帯の番号をシンさんはちゃんと教えてくれた。

アドレスも交換する。

「ダーリンにばれないようにな」と微笑んだ顔はやっぱり格好よかった。


もう終電もないのにどうするんだろうと思ったけれど、お母さんに夜中に家に入れてもらえることになっているのだと笑った。


次の日、パパが帰ってくる頃には、また隣の家から怒鳴り声が聞こえてきて、シンさんは今度こそ、東京の(どこかは細かく聞かなかった)一人暮らしのアパートに帰っていった。


あとからママに聞いたところによると、シンさんは人に騙されて借金を作ってしまったそうだった。

その督促が、本籍のある実家に来てしまい、お父さんが怒っていたのだ。

家に帰ってきたのも2年ぶりだと言っていた。



きっと、連絡は来ないかもしれない。

もう会えないかもしれない。

会えてもえっちはしないだろう。


シンさんが、私を好きになってくれればいいのに…

でも、そんなことは、ない。


私は、大好きだったあの人を想う。

決して、触れなかった唇。

私は、ちょっとだけ、泣いた。



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