第4話


「俺さ、ゆみちゃんの事、好きだったよ」

私は、引き寄せられ、抱きしめられた。

「たまにしか帰って来れないかもしれないけどさ」

甘い、コロンの香りがした。

「私、彼氏が…」

はっきり断れない。

お酒など飲んでいるわけではないのに、酔ってしまいそうだ。


思い出すのは、小学生のときから、中学生の時まで。

毎日がこの人で彩られていた。

いつも彼女がいて、私は時々挨拶をするくらいで、ほんの少しも見向きもされなかった。


どうして私は美人じゃないんだろう。

美人だったら、男なんかいっぱいいるのよ。あんたなんか目じゃないわ。そう言ってやるのに。


「愛してるって」

シンさんがそう言ったとたん、なにかが頭の中で、カシャンと音をたてて崩れた。


シンさんは、慣れた手つきで、私を脱がせていく。

私は、抵抗しようと思えばできたのに、しなかった。

抵抗して、シンさんがいなくなってしまうのが、嫌だった。

「きれいになったなぁ・・・」


シンさんは、とても素敵だった。

鎖骨のラインも、少し汗ばんだ額にかかった、前髪も。

シンさんは、私に覆いかぶさったまま、右足を器用に使って私の最後の下着を下ろした。

手馴れているのだと思うと少し悲しかった。


舌先が、自分でしか触れたことのない小さな膨らみをちろちろと激しく嘗め回すと、自分でびっくりするようないやらしい声が出た。

体が熱い。


シンさんの指が、私の中が濡れているのを確かめると、まるで何度も私の体を確かめたみたいに正確に、気持ちいいところを擦りあげた。

私は体を痙攣させた。


泣きたいくらい気持ちよかった。


シンさんは私の中に入ってくると、ゆっくり動いた。

感触を味わっているようにも思える。

私は女だから、男の人がこうしている時、何を考えているのかわからない。

彼なら「ゆみちゃん、ゆみちゃん」と夢中で動いて、キスをして、抱きしめてくれる。

とてもシンさんみたいに手馴れてはいないけれど。


シンさんは、決してキスをしなかった。

さっき、「愛してる」って言ったけれど、今だけのことなのが明らかなのだ。

私は、夢中で快楽をむさぼりながらも、頭のどこかが醒めていた。

そして、私はおかしな安堵感を覚えていた。

この人とつきあわなくてよかったと思った。

正確には、つきあえなかった、なのだけど。

私は、自分を好きだといったくれる人と初めてのえっちができてよかったのだ。

そして、幼かった恋を胸に抱いたままの過去の私は、好きな人とひとつになれて満足しているのだ。


私の中に、ふたり私がいるみたい。

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