休暇

ヴェルファリアが森から寮に戻ってきたのは朝の前。


思えば自分は一睡しなくても良かったが、ミリアは寝なくてもよかったのだろうか。


等と考えているとラッパが一回鳴り、朝の始まりを告げる。


今日は休暇だ、街に行くのが楽しみだと思っていた。


そう思い部屋を出ると、リリスも隣から出てき、お互いに部屋の鍵を締め朝御飯を済ませた。


そして寮を出ると、ミリアがいつもとは違う出で立ちでいた。曰く、着物というらしい。派手だが、こういった服もあるのだなあ。


「さあ、こちらに」


そう言って、ミリアに合わせて歩いていき街に案内された。


街は大きかった。そして斜面に街が広がっており、一番上には巨大な城があった。


「これが、街か」


「はぐれぬようお願いしますね。まずはリリスの服を見に行きましょうか。東の国の服とお見受け致しましたが」


ミリアがそう言うと、リリスは少し困った顔をし、


「いえ、これは自分で作ったものですから」


と言ってきたのでミリアも驚きを隠しきれなかったらしく、


「ドレスを自分で、ご冗談でしょう」


「いえ、本当よ」


「まあ、いいでしょう。きっと東の国の服だろうからそっちにいきましょう」


そう言って移動すると、なるほど。確かにあちらこちらドレスを着ている女性ばかりだった。


「この魔王軍の中心街ではあらゆる文化が入り混じっております。そしてそれぞれの文化が分かるようある程度区分化して作られているんです」


「そうなのか。ではミリアは西の国、なのかな」


「よくご存知で。ただ住んでいるのは北ですけれど。北は魔族の住む地区。父と一緒に住んでおります。母もそちらにいるんですよ」


ミリアの母のことは聞いていた。おそらく、西に住みたくないのだろう。顔がばれれば化物扱いだろうし。


そんなことを考えているとミリアと目が合った。見れば少し淋しげに笑っていた。考えていることが分かってしまったのかもしれない。


ここは話を逸らすか。


「リリス、綺麗なドレス、見つかるといいな」


「ええ、けれどこれ以上に丈夫なドレスもそうはないのですよね。戦闘用に作ってあるので」


「そうなのか」


戦闘用ドレスなんて存在するんだ、その事に驚きだ。


「月光蝶という魔物がいて、それが吐き出す糸を編み上げて作っております。大きな芋虫なんですけどね」


嬉しそうにリリスが話してくる。


「軽量かつ対魔術効果も上げて・・・」


よく分からないがリリスが嬉しそうならそれでいいか、と頷きながら話を聞いていた。


───と


「さあ、つきましたよ」


「わああああ」


リリスが嬉しそうな声を上げる。あちらこちらに美しいドレスが置いてあった。


とりわけ奥にある漆黒のドレスが気に入ったのだろう、それをずっと眺めていた。


「お目が高いお客様」


店の人だった。そしてリリスとドレスについて延々とお互い語り合っているようだった。


「にしても、リリスは何故黒にこだわるのだろうか」


横にいるミリアに尋ねる。


「さあ、別に白でも似合いそうですけどね」


「そこの緑のドレスなんて、どうなんだ?」


ミリアは、それを見て、うーん、と言いながら、


「どうでしょうか、緑はちょっと地味かもしれませんね」


「そうか、地味か。緑、結構好きだけど」


「ああ、リリスにとってということですよ。別にヴェルが着ていても問題ないと思います」


「あ、そう?緑の服を買おうとしてたんだ」


「黒い羽と緑では流石に似合わないのではないでしょうか」


「じゃあ赤なんてどうだろうか」


「いいと思います」


「お、そうか。シルバーが貯まったら買ってやりたいなあ」


「喜ぶと思いますよ。私にも何か買って下さい」


「ミリアは何が欲しいんだ」


すると、ミリアは少し考える仕草をした後に、


「そうですね、玉鋼とか。刀を作るのに必要なんですが手に入らなくて」


「それはどこで手に入れるんだ。どうもその口ぶりだと店では手に入らないようだが」


「製鉄所ですね。ただ販売されているかどうか。後は鉱山に住む魔物が鉄を餌にしていると聞いたこともあります。退治すれば良質な鉄が手に入るかも」


「ふむ鉄の生産か。まあ、シルバーは銀で出来ているし鉄も当然加工出来るか」


「はい」


───と


ふと横を見ると、リリスが顔を膨らましてそこにいた。


「いや、どうしたんですかリリスさん。そんな不機嫌そうな顔をして」


「どうしてミリアとばかり話してるんですか!」


「いやあ、リリスに似合うドレスはどれかなって。緑は地味だから赤がいいと言う話をしていたのさ」


「そうですよ」


ミリアが一緒に頷いてくれる。何も嘘は言っていない。


「私、あの奥の黒いドレスにします」


「で、おいくらなんでしょう」


「ざっと五万シルバーとなります」


リリスの横にいる店の人が笑顔でそう言ってくる。


「んんん!?」


思わずミリアと顔を見合わせる。そしてそっと耳打ちする。


「あるのか、そんな金」


すると、ミリアは、耳の傍で、


「ありますけど、買い物これで終わっちゃいますよ」


これは困った。


しかしにこにこと待っているリリスを見ているとどうにも断れる雰囲気でもなかった。


「ミリア、交渉って出来るか」


「まあ、多少は。期待しないでくださいよ」


そう言うなり、ミリアが努めて笑顔で店の人と話している。


そうしてしばらくしてラッパが二回鳴った頃。


「ふう、四万シルバーに落ち着きました。残りは一万シルバーですが」


ミリアがそう言うと、


「昼御飯をどこかで食べて一休みしよう」


なんだか疲れたのでそう言う。


「では近場で。南も魔族の区域ですがここは果物が多いです。果物を絞った飲み物などいかがでしょうか」


「それはいいな。それでいいよな、リリス」


「はい、有難うございますヴェル様」


後ろでにこにこしているリリスにそう言うと、どこか疲れ顔のミリアととぼとぼ歩いていくのであった。


ミリアに連れられて果物を絞った飲み物を購入し、とりあえず飲む。


これが甘くて美味しい。


「おお、これは美味い」


思わず口にしていた。


「そうでしょう。ここ結構好きなんですよ。お手頃価格でこの味、納得だと思います」


そう言われ、ふと。


「すまないなミリア。お金、もうなくて」


そっと耳打ちすると、


「いえ、とんでもない。ただ夜、鍛錬に付き合って下さればそれでいいですよ」


「そうか、それは構わないが。気になったがミリアは寝なくても大丈夫なのか」


「それも鍛錬のうち。一睡もしないことの方が多いですし」


「そうか」


「そういうヴェル、貴方様は?」


「寝ることは、ないな」


───と


横から気配がしたのでそちらを見ると、リリスが顔を赤くし立っていた。


「ど、どうした!」


「むむ、ミリアとばかり楽しそうに」


「あ、いや。この飲み物は美味しいなって。そういう話をしてたんだよ、な」


「ええ、そうよ」


ミリアと手を上げながら何故か謝罪させられてしまった。


「そ、そんな事よりリリス。早くドレスが着たくてしょうがないんじゃないか」


「そう、そうなんです!ようやく聞いていただけますか」


それは嬉しそうにドレスの話となってしまった。


途中何度か飲み物のおかわりを注文しながらそれを聞いているうちにラッパが三回鳴ってしまった。


「あら、もうこんな時間」


「うーん、街をあまり回ることはできなかったな」


「まあ、広いだけであまり見て回る物もございません。それに良い物ばかりでもないですし」


ミリアが少し声を下げそんなことを言い出した。


「と、言うと」


「やはり貧困の格差もございまして。このように発展しているところもあれば裏通りに入れば盗人等がおります」


「そういうのとは遭遇したくないなあ」


「ですから夜は出歩かない方がよろしいかと」


「では、今日は戻るとするか。リリス、帰ろう」


「はい、ヴェル様」


先程とはうってかわり、機嫌の良いリリスである。ドレスの話、したかったんだろうな。


そこでミリアとは別れ、寮についた。


晩御飯を済ませ、部屋に二人して戻った所で、こんこんと扉がなった。


リリスか、と思い扉を開けるとドレスを着替えたリリスがそこにいた。


「どうですか」


「うん、似合ってる」


「有難うございます、明日はこれで練習場に行きますね」


「あれ、戦闘用じゃないのに大丈夫か」


「もう、聞いてらっしゃらなかったんですか。このドレスは月光蝶の上位種の・・」


そうして夜更けまでドレスの話を聞かされた。


どうやら戦闘用にも対応しており、対魔術効果もあるそうで、耐久性にも優れた材質で出来ている事はわかった。


それ以外は、もう似合ってれば何でもいいじゃないか、と途中から思うヴェルファリアであった。






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