月下 2

「分かった。自分がどこまで強くなれるかは分からない。だが、お前が一緒に歩んでくれると言うのならばその期待に答えよう」


ヴェルファリアがそう答えてくる。


ミリアはそれに内心ほっと胸を撫で下ろしていた。


出来る限り淡々と説明してきたが、不安で押し潰されそうだった。


何故なら、ミリアにとってこれは初めての事だからだ。


自らの過去を話すこと、自らの生い立ちを話すこと、そしてこの刀の事。


それは思った以上に勇気のいることであった。


どこか確信めいたものはあった。


この御方ならば何も気にせず接してくれるだろう、と。


人間の身でありながらあれほどの強さを誇っている、そしてその強さを誇ろうともしないこの御方ならば。


だが、同時に。話した瞬間逃げられたらどうしようか、とも思っていた。


私の目の前から去っていく、それを引き留めることがどうして出来ようか。


化物と呼ばれ隠れ住むように生きてきたミリアには分からなかった。


そう、どう接すれば良いのかわからなかったのだ。


そうして思わず離したくない一心で全てを投げ捨てるように唇を奪っていた。


それと同時に思う。


リリス、あの魔族。


あの魔族には負けたくない。私に入る余地があるなら入れてほしい。


ヴェルファリア様、どうか貴方の心の片隅に私を入れて下さい。


「どうした、ミリア。震えているが」


ヴェルファリアにそう言われ、はっと我にかえる。


「いえ、私としたことが。少し考え事をしておりました」


「そうか、それにしても今日は月が綺麗だ。満月か」


───月


いつも夜、何かを忘れるように刀を振るっている時にも優しく私を包んでくれた光。


いつしか一人眺めることが当たり前になっていた。


「はい、とても美しゅうございます」


そう言ってヴェルファリアの傍に行く。


今だけは、どうか。


この御方と二人、寄り添うことをお許し下さい。


「なんだミリア。寒いのか?やはり先程から震えているが」


「いえ、これは」


「まあ、そんな薄着だからだろうな。もう帰ろう」


「お待ち下さい!」


思わず引き留めていた。それに対し、どうした、と言うヴェルファリア。


「この震えは寒さではありません。恐れです」


「恐れる、とは。ミリアほど強い人間でも恐れることがあるのか?」


そう尋ねられ、


「はい、それは失うこと。得たものを失くす事にございます」


「よく、分からないが」


「貴方様から頂いた信用を失うこと、それが一番恐ろしいのです」


その言葉に対しヴェルファリアは苦笑しながらこう答えていた。


「それなら何も恐れることはない。お前の強さは本物だ。それを疑うことはない。これから共に行こうと言ったじゃないか。むしろ、俺がお前を追いかけねばならないのだからな。置いていかれる心配をしているのはこっちだよ」


それを聞き、


「言葉だけでは分かりません」


「では、どうしろと」


「貴方様から口づけを。約束の証を下さい」


「いいのか、そんなもので」


「それが重要なのです」


そう言って目を瞑る。


息が顔にかかる、と思ったのと同時。


そっと、唇が重なるのを感じた。


「これで、いいのか」


「足りません、毎日こうしてもらいますから」


「毎日か、それはちょっとな」


「貴方様の優しさをいつまでも感じていたい。どうすれば良いのかわかりませんが」


「ならば、出来得る限り共にいようか。そうすればお前が心配になることもあるまい。それでいいだろうか」


そう言われ、


「はい、常に共に」


そう、笑顔でミリアは答えていた。


それと共に不安はどこかに消え去っていた。




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