出会いは突然に
ジークフリートが出ていった後、ヴェルファリアとリリスが残される形となる。
「しかし舐められたものですね、相手が一人とは」
「うーん、よっぽど強いのかもしれないな。闇の魔術の事はおそらく伝わっているだろうし通用しないんだろうな」
「最後だからと手の内を披露しすぎましたか」
「どうだろうか」
最後の一戦は二人して闇の魔術を展開し、相手の動きを止め一瞬で終わらせる作戦で行き成功はした。
だが、あの魔族の娘が出てくるのは聞いてはいたが正直想定外だ。
断るつもりでいたが、貰えるシルバーが倍というのに釣られてしまった形である。
「負ければシルバーなしですよ」
くすくすと笑いながら言うリリス。
「勝てばいいんだろう、勝てば」
ここまで行けば全力を尽くすまでだ。
そうこうしているうちに扉が開き、ジークフリートとその娘が入ってきた。
おや、と思ったのはどうやらお互い様だったようで、向こうから声をかけてきた。
「これは、この前の殿方」
夜みた少女だった。
あの時と変わらず薄着で、どこか透き通った異国の服を着ており、髪の毛は長い黒。リリスの髪も美しいが、こちらも負けず劣らず美しい髪をしていた。
しかしあの時と違い目は紅くなかった。
「おかしい、見間違いだったら申し訳ないが、貴方の目は紅くなかっただろうか」
「ああ、これでございますか」
───と
突然部屋中に殺気が満ち満ちてくる。そして心臓を鷲掴みにされた感覚。
それと同時。目の前の少女の目が紅く光っていた。
「殺気が漏れるとこうなるのです。まあ、今日はここまで本気になることもないでしょうが」
そうして目が元の黒に戻る。
なんだろう、この少女は。
「殺すな、と言われております。ですから峰打ちで行きますのでご安心を」
くすり、と少女は微笑んだ。
「それはこちらも同じ。殺すなと言われているから殺さないだけで手は抜きますとも」
リリスだった。
頭を抱えるのはヴェルファリアである。
「この子はミリアと言う。まあ、一つよろしく頼む」
ジークフリートが前にミリアを差し出す形となる。
「ミリア、と申します」
そう言って丁寧にお辞儀してくる。礼儀正しい子だった。
───はて
「ジークフリート様、でしたか。娘さんなんですよね。魔族ではないのですか?」
背中に羽は生えていなかったのでついそんなことを聞いていた。
「それは貴方様と同じでしょう」
ミリアにそう言われる。
「───は?」
「貴方様も魔族と人間との間に生まれし魔人ではありませんか?」
そう言われ考える。
そう言えば今まで考えたこともなかったな。魔族と人間との間に生まれたら魔人。
「面白い殿方と伺っておりましたが、なるほど。確かに面白い」
「いや、悪いが俺は人間だぞ。ひ弱な」
そう教えられていたのでそう答えるしかなかった。
「そうですか、まあ、言葉で語るよりもこちらで語った方が早い。そうでしょう」
そう言って腰元に差している得物にすっと手を置くミリア。
なんだ、あの武器は。
「ああ、刀を見るのは初めてでございますか。これは鞘でございます」
そう言って鞘を腰から抜く。そしてそこから抜いた先に鋭い刃が出てきた。
あれが、刀。
「あまりの鋭さから何かの拍子に切ってはいけないのでこうして鞘に納めているのです」
「そんな鋭い物で斬られたらひとたまりもないだろうなあ」
「ええ、ですから峰打ち。刃のついてない方で勝負致します」
そう言って逆さまに刀を持つミリア。
「あくまで、手を抜くと。槍で言うなら石突きで勝負するのと同じこと」
リリスが噛み付く。
いや、そこは穏便に。手を抜いてくれるならいいじゃないか。
気づけばミリアは苦笑していた。
「手加減等と。刀を使っている時点で本気でございます」
「そうですか、ですがこちらは手を抜きません。貴方の力量は先程の殺気で伺う事が出来ましたし」
「あーもういいか。じゃお互い構えて」
ジークフリートに言われ、ヴェルファリアとリリス、そしてミリアが対峙する。
「はじめ」
ジークフリートのその掛け声と共にミリアの姿が消える。
───早い
早いなんて物じゃない。見えない。
「かはっ」
気づけばリリスが鞘で叩かれていた。膝を折るリリス。
冗談だろう、早さでリリスが負けている?!
これは本気でいかねばまずい。
狙われなかったのは偶然か、必然か。
とにかく構える。
正直、ここまで「出来る」とは思っていなかった。
相手を舐めていたのはどちらか。
勝負ははじまったばかりである。
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