二対二
ラッパが一回鳴り朝が告げられる。
さて、どんな猛者が残るかな、と幕舎の中ジークフリートは考えていた。
明らかに異質だったのはあの男一人だが。
12人が幕舎の前に集まっていた。
「ジークフリートと言う。まあ、とある部隊長をやらせてもらっている。今回集まって貰ったのは他でもない。二対二を行ってもらい、勝ち抜いた者に報奨金を取らせようと言う話だ。それともう一つは鍛錬を教室ではなくこちらで引き抜いて行う事にしている。まあ、力量があれば、な」
腕を組みながらそう言う。
「武器はそれぞれの物を使っていい。それと手の内を明かされても困る者もいるだろうから訓練所でそれぞれ別れて戦ってもらう。案内しよう」
おそらく手の内を明かされて困るのはあの小僧一人だろうが、な。
訓練所に行きながら、何故あの小僧が、と思う所があった。
ジークフリートには気になることが一つだけあった。
12人集まった中で、11人が魔族だ。たった一人だけ人間がそこに混じっているのだから違和感を感じないわけがない。
魔族がここに来るのに何ら違和感はない。何故ならば魔族の方が圧倒的に体格差もあり、筋力も上。運動能力だけ見るのなら魔族がここに来るのは頷ける。
だが、こいつだけは違う。
どこからどうみてもひ弱そうな人間。
───見極めるか。
「一番と二番、入れ」
言われて人間と黒いドレスを着た魔族、そして男の魔族二人が入っていく。
ゆっくりと訓練所の扉を締め、向き合ってもらう。
ふむ。
あの人間は得物なし、か。もう片方は槍。
対する魔族二人は剣、か。まあ、確か授業も剣術の授業だったらしいしな。
と、なると。
あの槍は何だろうな。何故それを選んだのか。
そうジークフリートは思いながら、
「はじめ」
そう言っていた。
お互いが一気に距離を詰めていく。
二人の男魔族が剣を上段に構え女魔族に同時に襲いかかる。
───と
男の魔族が一人ぴたりと突然動かなくなった。
これは!?
思わず前に一歩足が出ていた。
しかも、この構えは!
そしてさらに一歩。
すると人間の男が構えるなり一気に加速し、一人の魔族を背後から頭を叩き気絶させていた。
槍の方も
「はああああ」
裂帛の気合と共に槍を突き出していた。
通常ならば即死しているだろうが、男魔族の左足を穿ち吹き飛ばしていた。
致命傷を避けた形となる。
いや、待て待て。
ジークフリートは首を振る。
まさか、な。
「それまで」
そう言って、
「お前たちに聞く。お前たちに武術を教えたのは誰だ」
二人は顔を見合わせるなり、人間の方は、
「それは言えない」
と言い、
「お父様からです」
と、女魔族が言ってきた。
「なるほど、分かった。後名前も聞いておこうか」
「ヴェルファリア」
人間はそう名乗り、
「リリスです」
魔族の女はそう名乗った。
それで十分だ。
この二人、勝ち残るな。
構えが全てを物語っていた。
片方はファフニル、片方はゲオルギウスの構えか。
こりゃ、他の相手じゃ勝負にならんだろう、とどこかで思っていた。
二戦目、三戦目、取り立てて言うほどの魔族はいなかった。
まあ、習いたての剣ではこんなものだろう、と言った所だ。
そうこうしているうちに最終戦となった。
順当にヴェルファリアとやらとリリスとやらが残り、男魔族二人が剣を持って構えている。
「はじめ」
そう言ったのと同時。相手魔族二人が全く動かず棒立ちの状態の所をヴェルファリアとリリスが背後をを取り素手で気絶させていた。
どうやら二人して闇の魔術が使えるらしいことは分かった。影を止め、相手の身動きを止める魔術を使ったのだろう。
勝ち残った二人は握手していた。
「それまで、勝負ありだな」
「で、シルバーは?」
ヴェルファリアがそう言ってきた。
「勿論準備するがな。さて、どうしたものか。娘と勝負して勝てればそうしてやろう。何二対一で構わんよ」
人間の方は少し考え、魔族の方は、
「どういうことでしょうか」
と尋ねてきた。
「そのままの意味だが。力量で言えば娘の方が上だ。お前たち得意の闇の魔術も通用せんぞ」
そこで二人が顔を見合わせ構える。
本当、この二人を見ていると昔を思い出すな。
思わず苦笑していた。
「まあまて、何もわしがやりあおうと言ってるわけじゃない。あくまで娘だ。問題ないだろう?」
「ある、シルバーだけ貰えばそれで十分なんだが」
「勝てば倍の報酬を出す、といえば?」
するとヴェルファリアは考え出していた。
ほれ、悩め悩め。どうせ金など持ってないのだろう。
「仕方ない、受けて立とう」
そう来るしかあるまい。
「そうかそうか、なら娘を呼んでくるから待ってなさい」
そう言って部屋を出た。
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