助言

三回目のラッパが鳴る。授業が終わり夕方を告げていた。空は紅く染まり、もうすぐ日も暮れようか、という時。


ヴェルファリアとリリスは先生に呼ばれていた。


「君達ね、おそらくこの教室で教えられることはありません」


と言われ思わず顔を見合わせていた。


「と、言いますと?」


「力量が違いすぎていると言っているのです。私の目は誤魔化せませんよ」


「そんなことは。ほら、剣術の時は負けてますし」


「あれは便宜上そうしたに過ぎません。あまりにタイタン君が可哀想だから」


そうだったのか。


「あんな隙だらけの攻撃、その気になれば潰せたでしょう貴方」


等と言われ困った事になったぞ、と思わざるを得なかった。


まあ、確かに攻撃は遅かったけれど。


「後リリス君、貴方の速度も尋常じゃない物があります。見ていましたよ、全て」


「え、ええ・・・」


リリスも面食らっている様子であった。


「で、驚くべきはヴェルファリア君です。人間の身でありながら魔族のあの速度に追い付いている」


「いえ、追いついて等いませんが」


実際追いついてはいなかった。風の魔術なしで純粋な動きならリリスの方が断然上だ。


「しかし対応は出来ている、これは異常です」


「はあ、異常・・・」


「と、言うわけで貴方達二人には別の人に見てもらいます」


「分かりました、どちら様でしょうか」


リリスが凛とした声でそんなことを言い出していた。


「とある部隊を管轄している方です。今お暇らしいので骨のある者を見つけたら連れてくるよう言われております。そこで貴方達二人を私から推薦致します」


「そうですか」


「それと、一応の試験として私と手合わせしてもらいます」


「は、はあ。それで負けた場合は」


「勝ち負けではありません。対応出来るかどうか見るだけです」


「そういうことでしたら」


そう言って、木の剣を全員が持つことになった。


そして剣を構え、先生と対峙する。


「では行きますよ」


そう言うなり、火の魔術を展開してきた。


「むっ」


構わず加速し距離を詰める。その間に魔術を展開し終わった先生は火の玉をこちらに投げてきた。


っておいおい、直撃したらどうする。


それを回避し、剣を振って首筋で止める。


「はい、次リリス君」


リリスの場合、もっと早く決着がついた。火の玉を展開するのと同時に剣で胴を打ち払っていた。



「うぐっ、ご、合格」


膝を折りながら先生が言う。


「あの、大丈夫ですか」


思わず心配する。


だが、それには及ばないと言った感じですぐにも立ち上がってきた。


「これでも魔族です。私も老いぼれたものですね。この程度で膝を折るとは。これでもですね、私も昔はあちこち転戦していたのですよ」


まあ、そうでなければ先生等務まらないだろう。


「その上で言います。貴方達は異常だ。あまりに早すぎ、あまりに強すぎる」


「と、言われましても。俺は強くはないですよ」


「隠してももはや意味を為しません、魔術に対し驚きもせず対応し剣を振るえる人間が果たして何人いようか。はっきりいって皆無です。あまりに実戦慣れしすぎている。リリス君にしてもそうだ。魔族の中でも極めて優秀と言わざるを得ません」


そういう所を見ているのか。


「しかし今度紹介する方は違う。貴方方より遥かに強いお方だ。その方に色々教わってきなさい」


「は、はあ」


「では参りましょうか。今から紹介に行きます」


「はい」


もうそう言うしかなかった。


しばらく北に行った所の外れの幕舎の中。


そこにその人はいた。屈強な体つきをしてはいたが、身長はそれほど大きな魔族ではなかった。自分よりは少し高いが。


───が


一目みただけで強いことははっきりと分かった。


強いなんてものではない。


強すぎる、そう感じられた。


父と比較してどうだろうか。少し考えてみるが、おそらくいい勝負か、と言った所だろう。


「では先生はこれで失礼するよ。くれぐれも粗相のないように」


そう言うなり先生は元の教室の方へ戻っているようだった。


「さて、これで全教室揃ったわけか」


そう言われリリスと顔を見合わせる。


「と、言いますと」


「各教室から選抜して二名ずつ出されているんだよなあ。骨のある奴ってのを。なお、勝ち進めば報奨金が出る」


「報奨金、つまりシルバー?」


「そうだが、やけに嬉しそうだなそっちの人間」


いやあ、シルバーがかかってるなら頑張らせて頂きます。


「もう勝てる気でいるのか、凄いやつだな。貧弱そうに見えるがまあいい。なお優勝するとさらにご褒美がついてくる」


「ご褒美ですか」


思わず食いついていた。


「うむ、もれなくわしとわしの娘と対決する権利を与えてやろう」


うわあ、それはいらないなあ。となれば、優勝せずともいい線いけばいいか。


そんなことを考えていると、こちらの考えを見透かしたように、その魔族は続けた。


「手を抜いて勝ち抜ける程甘くもないと思うが、まあいいだろう。勝負は明日だ。今日は休め。明日の朝ここに来るように。なお対決は二名対二名で行う」


ふむ、リリスと、ねえ。


とりあえずリリスに任せておけば問題ないだろう。


そんなことを考えながら寮に戻っている最中、リリスがこんなことを言っていた。


「確かに、手を抜いて勝てるとは思えませんが。あの魔族、相当出来ますよ」


「だろうな、父と比較してもいい勝負するとみた。対峙してる感じが似ていた」


「それよりもまずは初戦ですが、いかが致しましょうか」


「リリス一人で勝てるようならそれで押し切ろう。俺は後方に回る」


「分かりました」


「槍、持って行った方がいいんだろうな。俺は得物がないからいいけど」


「そうですね、今日は集中したいので別々に寝ることをお許し下さい」


「許すも何も、それでいいよ」


そうしてその日を終え、次の日がすぐにやってきた。

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