思い出の中で

父に勧められるままに学舎にきたリリス。寮住まいとなり、部屋の端を貰おうとした所先客がいた。


大量のシルバーを持ってきた男の子らしかった。とんでもない金持ちがいたものだ、と思った。


が、今はそんなことどうでもいい。とりあえずベッドの横にドレスをかける。


そして窓際に槍を置き、ベッドに横になった。


かつてのあの子は来ているだろうか。


父には、


「きっと来ているだろうさ」


そう言われるままに来たが、いなかったらどうしようか。そんなことを考えていると思わず、


「ヴェル、会いたいな」


そんなことを呟いていた。


この学舎で会えるだろうか。淡い期待を持ちながら少しの間眠っていたのだと思う。気づいた時には、ラッパの音が二回鳴り昼を告げていた。


ドレスを着、そして体育館に向かう。


そうして、左に人間が、右に魔族が別れるように言われ、言われたまま右に向かう。


「リリス君、一番」


そう言われ、一番か、と心の何処かで思っていた。


そんなことはどうでもよく、名前をとにかく集中して聞いていた。


これだけ人がいればいるのではないだろうか。私の父にすら学舎の事は伝えられたのだ。ファフニル様の家に伝えられないわけがない。そう心の何処かで信じていた。


そしてその願いは叶う。


「ヴェルファリア君、一番」


心が急に熱くなるのを感じた。


───ヴェル、やっぱりいたのね!


ぱあっと顔が明るくなるのを感じていた。


どうやって会おうかな。昔みたいに偉そうに会ったら嫌われるかな。


思えばあの頃は人間を見下して生きていた。それでは駄目なのだと教えてくれたのは彼だった。


あんな強い人間、他にはいない。


時間が経つと共に強くなる彼への気持ち。それを抑えることはもう出来なかった。


早く会いたい。


そうだ、絶対に逃さないためにも先に出ておこう。


そうリリスが思った時、人間が巨体な魔族に絡まれているのが目に入った。


───邪魔ね


そう思い全身の魔力を高める。


もう子供の頃とは違う。あの程度の魔族なら素手でも十分、と思った所でふと。


隣の人間の方から巨大な魔力を感じていた。


おかしい。魔族の方ではなかったか。


ひょっとして、このままではあの魔族、死んでしまうんじゃ。


そう思うと急いで止めに入らねば、と思う自分がいた。


───と


隣の人間には見覚えがあった。


否、間違いない。


ヴェル!


このままではいけない。ヴェルにも迷惑がかかるけど、この魔族も下手をすれば殺されてしまう。


「待ちなさい、そっちのでかい魔族」


つい口にしていた。


「あん、誰だ」


でかい魔族がそう言ってくるが、そんなことはどうでもいい。


「貴方、どきなさい邪魔よ」


魔力を込めて思い切り突き飛ばした。これで出口は開放されるし、何よりヴェルに迷惑がかからない。


「うおおおお」


転がりながらどこかに行く巨体な魔族。


───おい、大丈夫か。


どこからか声がするがどうでもいいことだろう。


さて、どう声をかけたものか。気軽にヴェル、久しぶりね、かしら。


いやけれど、もういい大人だし。じゃあ、これならどうかな。


「お久しぶりです、ヴェル様」


「───は?」


間の抜けた声が返ってきた。


それも無理のないことか。あれから何年も経ってるものね。


「ここでは何ですから教室に移動しながら話をしましょう」


「いや、ちょっと待て。俺は貴方を知らない」


言われてしまった。やっぱり忘れられているらしかった。


「お忘れになるのも無理からぬこと。では名乗らせて下さい。リリスと申します」


少し考え込んでいるヴェル。やっぱり様付けがいけなかったのかしら。


まあ、けれど。ここまで来たらもう多少強引でもいいだろう。


「さ、参りましょう。私は一番ですが、ヴェル様は?」


そう言って出来る限りの笑顔を作り、手を掴んで引っ張るのであった。


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