思い出の中で2
とにかく腕を離すよう言われたが、ひたすらにしがみついた。
本当に思い出せないのかしら。
「いいえ、あの時と変わらず貴方の魔力は強大です。それだけの魔術耐性を張っておきながら分からぬとでも」
そこまで言った所で魔力を込められ強引に手を引き離された。
「何者だ、本当に」
敵意をむき出しにし、構えるヴェル。
「本当にお忘れですか、わたくしを」
「忘れるも何も、知らない。貴方ほど強大な魔力を持った魔族はそうはいないだろう。そもそも俺を様付けするような魔族いるわけがないだろう!」
やっぱり様付がいけなかったのかしら。謝ろう。
「怒らせてしまったのならば申し訳ありません。では、昔のようにヴェルと呼んでも」
「だから、赤の他人だと言っている!」
これは、言葉で言ってもきっと思い出してもらえそうにない。
仕方ないが、実力行使しかないだろう。
「分かりました、そこまで仰られるなら夜、外でお待ちしております。大丈夫です、周りに人目がいない場所がありますのでそちらにご案内致しますわ」
「待ってくれ、貴方は一体」
「今はよしましょう。人が来ます。一番部屋へ入りましょう」
教室に15人が集まり、先生と名乗る魔族が一人一人名前を読み上げていく。出席を取っているらしかった。
「リリス君」
「はい」
しばらくすると
「ヴェルファリア君」
「はい」
そこで出席が終わる。
次に勉強の流れについて説明を受ける。簡単な魔術の学習や武術、戦闘技術教練などが行われるらしい。
が、今はそんなことどうでもよかった。
時折ヴェルの方を見る。とても不機嫌そうだった。しかし私は笑顔で答える。
思い出してもらえないかな?
───と
ちょうど休憩時間。学舎の裏にいると、先程体育館で鉢合わせた魔族が前に来る。
「おい、さっきはよくもやってくれたな」
「力量もわきまえずいるからよ。何、もう一度吹き飛びたいの?」
そう言い、魔力を手に込める。
「あまり舐めるなよ女のくせに」
「それはこっちが言いたいわ。まあ、ちょうどいい。力量の差を知りなさい」
そう言って拳を巨体にめり込ませる。
するとがくんと膝を折り、巨体な魔族は沈んだ。
「今後、一切関わりにならないことね。私とも、ヴェル様とも。何かあったら今度は許さないから」
そう冷たく言うのみであった。
そしてラッパが三回鳴る。今日の授業は終わり。
「お、おい。さっきは悪かったな」
「いえ、当たったのはこちらなので。申し訳ない」
「じゃ、じゃあな」
そう言って巨体な魔族が小さくなるようにして帰っていった。
前にいるヴェルに声をかける。
「良かったですね、向こうから謝ってきて」
それに対し振り向かずヴェルは、
「───あの魔族に何をした」
そういうしかなかった。そう、ちょっと殴りはしたけどそれ以上のことはしてないし、まだ、ね。
「別に、何も」
「───っ」
振り向きざまに攻撃しようとしてきたので止めることにする。
「いいのですか、今、人の目につきますよ」
おそらく、こう言えば手は出せまい。夜話をすればいいだけの事だ。
「いいだろう、夜だったな。話はそこで聞かせてもらう。だが、いいか。俺は貴方を知らない」
「けれど、わたくしは知っております。そして今日思い出してもらいます」
嫌でもね、そう付け加えて去ることにした。
そして夜を迎える。
寮の外で槍を持ちヴェルを待つ。
「こんばんは、ヴェル様」
身構えるヴェル。しかしここでは人目がつくだろう。
「こちらにどうぞ」
そう言って連れられたのは寮の裏の森の中。そしてかなり奥まで来た。
ここらなら大丈夫だろう。
「このあたりならば大丈夫でしょう。思い出せませんか、まだ」
そう言うなり、リリスは持っていた槍を頭の上に構える。
それに応じるようヴェルも構えてくる。構えは昔と少し違っていた。
「───思い出せないな」
「では、これならどうでしょうか」
そう言って闇の魔力を展開する。
「まずはお手並み拝見と行きましょうか」
そう言って、闇の刃をヴェルに飛ばす。
まあ、この程度なら通用はしないだろう。
そしておそらく。
ヴェルが氷の魔力を左手に込めた所でくすくすと思わず笑ってしまった。
昔と何一つ変わらない。氷の魔術で様子を見て、最後は体術かしらね。
「何がおかしい」
「凍結狙いですか、変わりませんね」
そう言って今度は暗闇の中に消える。
闇の中に潜り込んだのだ。
しばらくの静寂。
背後を静かに取り、槍を軽く振る。勿論当たりそうなら止めるつもりだったが、ヴェルは加速して即座に回避したのでそのまま横に薙ぎ払った。
「やはり見切りますか、この程度なら。では、これならどうでしょうか」
今度は純粋に速度での勝負。一気に加速しヴェルの背後を取る。
そうして槍を振り下ろす。
光の盾でも展開するか?それならばそれで回避する準備がこちらにはある。
「くっ・・!」
前のめりになって寸でのところで回避された。
「まだ思い出せませんか?」
今度は更に速度を上昇させ攻撃しようとする。
───が
向こうも加速して来、減速が出来なかった。そして───
「───っ」
「痛・・・」
二人してでことでこが当たり頭を抑えていた。
「いたた、お、思い出せましたか?」
「っう、ああ、なんとなく。ひょっとして君、闇の魔術を教えてくれたあの時の子か」
ようやく思い出してもらえた。嬉しさに涙が出そうになるのをこらえる。
「そうです、ヴェル様。お会いしとうございました」
「ヴェル様、というのは初めて聞いたと思うが。で、こんなことをしてまで何故」
「約束したではありませんか、必ず迎えに行くと」
「共に戦う、だったか。しかし、人間と魔族が共に戦うなどありえないことだ」
「ならば私達がその初めて共に戦う者となりましょう」
そう言って私は手を差し出す。
ヴェルはためらっていた。
だから。
そっと横から抱き締め、そしてヴェルの手を握り、
「共に、戦いましょう。そのために、私はここに来たのですから」
そう言ってヴェルに口づけを交わすのであった。
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