二章 プロローグ

父に連れられ、魔王軍が建設したという学舎に向かったヴェルファリア。


学舎は立派な建築物で、赤煉瓦で出来た建物であった。そこの門番らしき魔族と父が話している。そしてシルバーをどさっと渡すと、こちらに来るように言われた。


「この子が今日からお世話になる。確か宿がなくても大丈夫と聞いたが」


「はい、備え付けの寮がありますので食事などお気になさる必要はございませんよ。服なども洗うことが出来ます」


それを聞いて驚いた。


「まさか、水道技術がもう完成しているのですか?」


「はい、魔王軍ではもう既に水道が完成されております、農業なども盛んですよ」


「お、おお」


あまりの感動に言葉も出ない。最先端技術に触れられるとは。


「どうだヴェル、来てよかっただろう?」


横にいる父に言われ、はい、と思わず答えていた。


しかしそっと耳打ちされる。


「だからといって飲水として利用は出来ないから飲水は自力で作ることだな」


そう言われ肩を落とすのであった。


「では、俺は行く。ヴェル、一年間頑張れよ」


「はい!」


そう言うなり父は軽く手を振り去っていった。


「では、案内に入ります。ヴェルファリア様は個室ですね。あれだけのシルバーは凄いですねしかし。よほどのお金持ちとしか思えません」


門番に言われたが苦笑するのみであった。


いやあ、森で育っただけでシルバー稼いでる所なんて見たことないんだよなあ。


出処がわからないシルバーである以上何も言えない。


「寮の中でも一番上の階になりますね。人数にして30人います。一番上は個室で5部屋整備されてます。お好きな部屋にお入り下さい」


「じゃあ一番奥で」


「分かりました、鍵をお渡ししておきます。扉にはきちんと鍵をかけられますよう。管理はしっかりとお願い致します。物騒ですから盗まれてはいけませんし」


そう言われ鍵を渡される。命の次に大事なものになってきそうだ。


そして案内される寮。こちらも赤煉瓦で作られた建物で最新式の建築様式が用いられているようだった。見ていてあまりに美しい。単純な石造りの家よりもとても美しかった。


そして中に入ると、中央に階段が設置されていた。その階段を上がっていき一番奥の部屋に着くと、


「では、今日から一年、楽しい学生生活を送って下さいね。なお時間の管理はラッパの音でされます。まあ、慣れてくれば分かるでしょう。夜のラッパは3回鳴ります。その後寮の一番下の階でご飯が提供されるのでそこで食事を済ませて下さい。朝はラッパ一回。こちらも食事が出されます。昼は二回です。昼は教室でご飯が配られます。では、人間と魔族の共存を」


門番の魔族にそう言われ、


「あ、はい。人間と魔族の共存を・・・」


出来るわけないよなあ、と苦笑しながら答えるのであった。


そして木で出来た扉の鍵穴に鍵をさし扉を開け締める。


そこにはベッドと机のみがあるだけだった。唯一窓がついてるのが目に入るくらいか。


窓から外の様子を伺うと、外がよく見えるように出来ていた。


だが、同時に疑問にも思う。この窓、軽く叩けば割れてしまう。外の木の扉もその気になれば砕けるだろう。侵入は容易いのではないだろうか。


その際どうすれば良いのか、少し考えた。


例えば、魔族がこの窓に飛んでくる。突っ込んできて窓を割った場合、修理費はどうなるのか。


例えば、木の扉を魔族が砕いて入ってきた場合修理費はどうなるのか・・・。


いやいや、まあ考えすぎか。見たところ最低限の秩序は守られているようだし。そこは気にせずいくとしよう。


しかし時間の管理か、なんだか面倒だな。そう思いながら空いていた机に薬草を作るための道具一式を広げる。


そうして、ふと。


思えば今まで時間の管理等したことがなかった事に気づく。時間に制限をつけることなど鍛錬の時以外あっただろうか。


なんとなく朝を過ごし、昼を過ごし、そうして夜がやってきて夜を過ごして疲れたら一休み。


睡眠は、魔術を習って以来あまり取って来なかった。魔術耐性を張るのに一睡もしないことが当たり前になっていたからだ。


さて、ここでは更にどうなることやら。人間と魔族が仲良く共存出来るのか否か。


そんなことを考えているとラッパが二回鳴った。昼を告げているらしい。


特に今日の予定はなかったよな。そう思いながらベッドの奥に行き魔術の練習をする。いつもの光の魔術の鍛錬だ。


そういえば、母さんにこの鍛錬法見られてびっくりされたんだよな。


その時のことを思い出す。


「貴方、自分の腕で何してるの!」


「いや、練習ですが」


「それは禁止します。自殺でもするつもりですか」


そうなんだよなあ。自殺行為に等しい鍛錬法だが命がかかっているからこそ最も効率よく鍛錬出来る練習法なのだ。


さて、腕を軽く斬る所から始めるか、と思った所でこんこんと扉がなる。


「はい」


不用心にも返事をしていた。


「あ、先程の門番です。言い忘れておりました。今日の昼は体育館に集まって頂きます」


「ちょっと、体育館ってどこですか」


慌てて扉を開けていた。


すると門番は苦笑し、


「ああ、外に出てあちら側わかりますか。校舎の更に向こう。そこに体育館は存在します。一際大きな建物なのでまず見間違えることはないでしょう」


そう言われ廊下についている窓から外を見る。


なるほど、確かに一際大きな建物があった。屋根は円形で作られており、建物も円形だった。


「凄い、曲線を描いた建物ですか」


「はい、あそこが体育館。そして手前にあるのが校舎となります。こちらは百人が収容出来るようになっております。そして一部屋に大体15人が入るようになりますね。今回は初めてなので90人入る予定です」


「つまり六部屋使うということですね。そのうちのどこかに配属される」


「はい、そしてその配属決めをこれから体育館で行います。さて、そろそろいかねば間に合わなくなります」


「そうですか、分かりました」


そう言って走ろうとする。


「あ、寮内は走ってはいけません。外から走ってくださいね」


「え、はい。わかりました」


そう言って少し急ぎ足で廊下を移動し、階段を降り、下につくなり一気に地面を蹴り走った。


そういえば風の魔術なしで走るのも久しぶりだな、そんなことを考えているうちに体育館についた。


体育館には多くの人間、魔族がいた。


今日から彼らと生活を共にするわけか。そこに緊張する。


とりあえずはどこから魔術が来てもいいように耐性を張り巡らせ、そして攻撃が来てもいいように距離を取り構える。


───と


「では皆さん、整列をお願いします。なんでしたら人間と魔族、別々に分かれてもよろしいですよ」


体育館の正面からやたら大きな声が聞こえてくる。


その声に従うように人間は左に、魔族は右に集まる形となる。


ここは倣っておくか、と自分も左側の部屋の隅に立つことにした。


「それでは静粛に。これより配属を伝えます」


そう言って名前が読み上げられ、部屋割されていく。


「ヴェルファリア君、一番」


自分の部屋が言われる。一番か。


他の名前等どうでも良かった。とにかく一番、一番と考えていると、話はまだこれで終わりではなかったらしい。


「君たちが初めての学生となる。人間と魔族の共存出来ることを是非とも示して頂きたい。それが覇王バルバロッサの願いでもあり、校舎が建設されました。未来ある子どもたちに何かを残したい、そういう願いの元君たちが集まったことをどうか忘れないでいただきたい。では、解散」


やたら大きな声の主はそう言うと気配を消した。結局後ろからでは人だかりがあって人間だったのか魔族だったのかも見えなかったな。


まあ、いいか。とにかく一番の教室に行こう、と思い出ようとした所隣の魔族と体が当たってしまった。


「おい、ちょっと待て。今体が当たったぞ人間」


やたら体格の大きな魔族であった。そして声もでかい。


「申し訳ない。出口が狭くて」


「それだけか、土下座して謝るなら許そう」


さて、どうしたものか。周りの目も気になる所ではあるし、何より出口を塞いでいる形となっている。これは土下座で済ませるか、そう思い土下座しようとしたところ、


「待ちなさい、そっちのでかい魔族」


女の声だった。


「あん、誰だ」


確かに、誰だろうか。


そう思い女の声の方を見ると、


ばさり、と大きな黒い羽を広げ全身黒いフリルドレスを身にまとった漆黒の女魔族がこちらに歩いてきていた。長い髪が棚びいてその美しさをより引き立たせていた。


綺麗だ、と素直に思った。


「貴方、どきなさい邪魔よ」


そう言うなり巨体とも言える目の前の魔族を片手で弾き飛ばした。


「うおおおお」


転がりながらどこかに行く巨体な魔族。


───おい、大丈夫か。


どこからか声がする。それはどっちの心配だ?


俺か?それともあの魔族か?


そう考えていると、


「お久しぶりです、ヴェル様」


漆黒の女が笑顔でそう言ってくるのであった。


「───は?」


自分でも間の抜けた声を出していたと思う。


「ここでは何ですから教室に移動しながら話をしましょう」


「いや、ちょっと待て。俺は貴方を知らない」


向こうは面識があるようだが、こちらには面識がない。


すると、女は少し悲しそうに微笑みながら、


「お忘れになるのも無理からぬこと。では名乗らせて下さい。リリスと申します」


漆黒の女性がリリスと名乗った。


───はて?


どこかで聞いたような。


だが、記憶を探しても何も出てこない。やはり人違いではなかろうか。


「さ、参りましょう。私は一番ですが、ヴェル様は?」


そう言ってリリスは笑顔で手を掴んで引っ張ってくるのであった。




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