一章 エピローグ
そうして幾年月が流れ、ヴェルファリアは数えにして18になった頃。
日々鍛錬し、素直に成長していったヴェルファリアはあらゆる魔術を使いこなし、武術も卓越した技術を身につけていた。
その頃には魔術だけでなく薬草学や工学と行った人間らしい勉強もするようになっていた。更には父から軍略も教わっていた。
そして、その日は森に出て薬草を探していた。
───と
ことさら大きな魔力を感じたので咄嗟に隠れる。勿論自分の魔力は最小限にして、だ。
誰かは分からないが、全身布で覆われた魔族が家に入っていく。
しばらく様子を見ていると、少しして家から出ていった。
完全に魔族の気配がなくなったのと同時に家に入る。
「ただいま戻りました」
「ヴェル、いいところに」
母だった。
「さっきの魔族は何者ですか?」
「伝令、ね。魔王軍の。どうやら人間と魔族が一緒に学べる学舎なるものが出来たらしいの」
「そうですか」
「ヴェル、興味はない?」
「ありませんね、学ぶ事はここで全て学べる。それにまだまだ父さんから学ぶ事は多い」
「いや、お前はその学舎に行くべきだ」
奥から父が出てきた。
「なんですって。今更人間と魔族とが学ぶこと等あるでしょうか」
「あるからこそ学舎は設立された。共存出来る道を探してくるのだ。シルバーが必要だと言うことだったが、シルバーならここにこれだけある」
そういってどさっと山ほどシルバーを出してきた。こんな山ほどあるシルバーをどう運べと、と思っていると、
「ああ、道中一緒に行く。シルバーが奪われてはたまらんからな」
「そうですか」
「一年、だそうだ」
「え?」
「一年学舎で学んだ後、魔王軍に配属されるそうだ」
「魔王軍に・・・」
とうとう軍に配属されることになるのか。
ヴェルファリアにとって軍は何の興味の対象ではなかった。興味があるのは自己研鑽のみ。それ以外何の興味も示さなくなっていたのであった。
そう、例え明日この世が滅ぶ、と聞かされた所で今のヴェルファリアにとってはどうでも良い事。何故なら興味が無いからだ。各地で戦乱が起きていようが、いまいが興味がない。まるで自分に関係ないことなのだ、興味を持った所でどうにもなるまい。
「この世で最も罪なことは何なのか、答えろヴェル」
父に言われ、深いため息をついた。
「またその話ですか。あらゆることに興味を持たぬ事、でしょう?」
「まさにお前のことだ。あらゆることを知り尽くしたつもりでいるだろうが、世の中わからぬことのほうが圧倒的に多いことをお前は知るべきだ。そして興味を持つべきだ」
「学舎は興味を、僕の知的好奇心を満足させてくれる、と?」
それに対し、父は静かに、そうだ、と答えた。
「具体的にどうやって?」
「ほら、既に興味があるではないか」
そう言われしまった、と思う。なるほど、どうやって自分を満足させられるのか気にはなる。
「人も沢山いる、魔術もそう扱えない環境で、果たしてどれだけのことが出来るのか試せる唯一の機会だと思うがな」
「魔術も扱えないのですか」
「一応学舎で魔術の勉学もするそうだが、今のお前にそんなもの必要なかろう。そんなことよりもお前は人と接することを学ぶべきだ。人と接することでどうなるのか、そろそろ知るべきなのだと思う。そのために今まであらゆる技術を教えてきたのだから」
そう言われ、納得せざるを得なかった。
「分かりました、学舎に一年ほど行って参ります」
「うむ、では出発するか。ああ、お前に一つだけ伝えておかねばなるまい。生まれや育ちを聞かれても絶対に口外するな、いいな」
「はい、分かりました」
「私の名も母の名も出すな、絶対に、だ」
「分かっております。お二人は隠れてここに住みたいということですよね」
「まあ、そういうことになるな」
「では、気をつけてねヴェル」
「はい、息災で」
ヴェルは最低限の荷物をまとめて出発する準備を整えた。
服と長ズボン、そして薬草を調合するのに必要な道具一式。
このような形でこの森から出ることになろうとは思わなかったが、致し方あるまい。
「学舎、か」
そこがどんな場所であるか想像は出来なかったが、容易に想像出来る事が一つだけあった。
人間と魔族は決して交わらない、ということ。
これは永久不変の課題だ、とヴェルファリアは思っていた。
そう、学舎に行くまでは。
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