魔術の限界

ヴェルファリアが気づいた時には、自分のベッドに横たわっていた。


見慣れた石造りの天井がそれを教えてくれた。


「───何故」


何故ここにいるのか。


「気づいたか」


「大丈夫なの!?」


父と母が横にいた。


「大げさな、大丈夫です」


そう言って起き上がろうとするが体が言うことを利かない。全身身動きが取れず起き上がることすらままならなかった。


「くそっ、なんだこれ。大丈夫ですから」


そう言って今度は横向きになって起き上がろうとするが体に力が入らず起き上がれない。


「お前、三日間寝てたんだぞ。魔力切れだな、止めろと言ったのに雷の魔術を使ったな」


そう言われ自分の行動を思い出す。確かに、最後の掌に魔力を集中させたがそれほど膨大な魔力を消費したつもりはなかった。


「雷の魔術は、全ての属性の中で最大の魔力を消費する。そんなもの今の未熟なお前に連発は不可能だとはっきり言えば良かったな。とにかくもう少し休むことだ。今お前に必要なのは静養だ」


そう言われ、再びベッドに押し戻された。そして母が回復魔術を施し始めてくれた。


「ありがとうございます、申し訳ありません」


「いやいい。雷の魔術についてもう少し話をしようか」


そう言って、父は傍にある椅子に座った。


「ある英雄が雷の魔術師だったという話だ。が、最後の結末はあまりにあっけない」


「───と、いうと」


「彼は最後に自分の限界をさらに超えた力を扱おうとした。確かに無敵だった、誰もがそう信じて疑わなかった。が、限界の方が先に来てある時全身から血が吹き出てその場に倒れた。その後、彼は戦に出ることは叶わなくなったのだ。連戦連勝の英雄だったにも関わらず、最後はそういう結末を迎えたわけだ」


「死んだのですか、その英雄は」


すると、父は首を振り、


「いや、生きている。だが、お前にはそうなってはほしくない。雷の魔術師の宿命かもしれないがな。そういう運命なのかもしれない。だからこそお前にはそうなってはほしくないのだ。だから小細工を教えている」


「小細工?」


小細工、と言われ首を傾げた。


「そうだ、あらゆる魔術の頂点、雷の魔術さえ扱えれば敵はいない。が、致命的なのがその消費魔力と肉体の損傷。いいか、覚えておけ。魔術は己の限界以上の物は使えないものとしれ。魔力が底を尽きれば気絶し、そのまま首を取られるだろう。即死に至るものだ。今回はたまたま母さんが気づいて回復魔術をかけたためお前は生き残っただけのこと。いいな?」


「はい」


素直に返事をしていた。今魔術耐性を張ることすら出来ない自分にとって、それはとても正論に思えたからだ。


「小細工とは、雷以外の魔術の事だ。お前にはあらゆる魔術耐性を身につけ、その英雄の二の舞いにならないようにしている、つもりだったが結局こうなってしまった。自分が不甲斐ない」


珍しく父が肩を震わせそう言っていた。


「いえ、父が気に病むことではありません。自分の未熟さ故です。また、魔術を教えてください」


そう言って、少し息を飲む父。


しばしの無言。空白の時間。


どれくらいが経っただろうか。先に口を開けたのは母だった。


「───貴方、ここまでなっても魔術を身につけるつもりなの?」


「はい、もし僕にとってそれが宿命、運命だとするならば、僕はそれを魔術で乗り越えてみせたい。小細工と言われたもので」


それに、思わず父も母も顔を見合わせお互い苦笑し、こっちを見て


「そうか、そうだな。お前はひ弱な人間なのだ。小細工なしで生き残れると思うなよ」


父が笑いながらそう言い、


「そうね、貴方には明日からまた魔術の鍛錬をしてもらいます。けれど今日はゆっくり休んで、いいわね」


そう言われ無言で頷いた。


魔術の限界、それは魔力の限界。


ならば魔力の量を上げればいい。


更にいえば、今回の事で思ったのは魔力の質そのものを高めればいい。


例えば最小の魔力で魔術を展開出来るのならば、こんな無様な醜態を晒すこともない。


より高い質の魔術と魔力を。


そして肉体に限界が来ると言うのなら、更に肉体を強化すれば良い。



宿命と言われた。運命と言われた。


だが、ヴェルファリアにとってはどうでも良かった。


誰にも負けない力を。少なくともこんな無様な姿を誰にも見せないよう生きたい。


今の願いはそれだけだった。


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