雷の魔術 基礎編
夜、雷の魔術書を読み終えたヴェルファリアは珍しく一人訓練所にいた。
と言うのも、母も父も雷の魔術はどうにも苦手、ということで相手が出来ないとのことだった。
二人して雷の魔術が苦手と言うのは珍しいが、苦手な物もあるのだろう。そこを考えても致し方のないことであろう。そう思いながら雷の魔力を込める。
「雷撃による魔術はあらゆる角度より敵を狙い撃つことが可能」
雷は見たことはあったが、果たしてあれが発動出来るものなのか。稲光を想像しながら掌に魔力をひたすらに込めていく。
するとばち、ばちっと火花が散る音と共に稲光が少し展開されていく。
「これが、雷の魔術か」
そう言い、正面に向かって掌をかざすと細い光が一瞬走って壁に当たって消えた。
それを見てヴェルファリアは首を傾げた。
と言うのも、今までの魔術は割りと派手な威力であったし、何より劇的だった。自分の中で世界が変わるほどの何かを見せてくれた。
だが、この雷の魔術はどうだ。一瞬光って消えるだけの閃光。これが何か役立つのだろうか。
そうは思いながらもう一度雷の魔術を展開し、掌からもう一度稲光を出す。やはりさっきと同じ通り一瞬光ったと思ったらすぐに消えてしまった。
───ひょっとして、失敗か?
そう思い、気を取り直して別の用法を使ってみることにした。
「人間の体に近い生命体、例えば召喚物に雷の魔術を込めることにより行動力を飛躍的に上昇させることが出来る」
なんて記述もあったが、果たしてどうなのだろうか。再び雷の魔力を全身に込めてみるが、なんの変化もなかった。
ひょっとして移動すれば風の魔術の時のような劇的な物があるのだろうか。そう思い歩いてみるが何の変化もない。
「こりゃ意味がないな・・・」
そう一人呟いていると、外からこんこんと扉がなった。
「入るぞ」
父の声がし、
「どうぞ」
返事を返すと、静かに父が入ってきて扉をゆっくりと締めるなり、
「どうだ、雷の魔術は?」
「うーん、劇的な物が何も感じられません。ひょっとすると失敗してるのかもしれませんが」
「ふむ、見せてみろ」
そう言われ、掌に雷の魔力を込め父に向かって先程の稲光を投げつける。
───と
シュン、と父の脇腹をかすめ怪我をさせてしまった。
「も、申し訳ありません」
「いや・・・そうか。雷の魔術は出来たんだな」
そう言って腕を組む父。珍しく考え事をしているようだった。
「あ、いえ。今のともう一つ。召喚物に雷の魔力を込めることで動きを早めたり出来るみたいなんですが、何も変わらないんですよね」
「ふむ、いやかまわないからやってみなさい」
そう言われ、今度は全身に雷の魔力を込め身にまとう想像をする。
「では、いくぞ」
そう言うなり父がゆっくりとこちらに攻撃してこようとする。
「いや、父さん。流石にゆっくりすぎますよ」
そう言って、風の魔力を足に込め地面を蹴る。そしていつものように蹴りを繰り出す。
いつものように防御されるだろう、そう思っているがいくら蹴っても父が動かない。
首を傾げるヴェルファリア。
「父さん。いつまで身動きしないつもりですか。効かないなら効かないと・・・父さん?」
とんとん、と肩を叩くが何も返事が返って来ない。
おかしい、これは一体どうなってるのか。
そう、まるで自分以外の世界が止まっているような。
───と
「がっ・・・はっ・・・」
気づけば突然口から血を吐いて倒れていた。
それと同時。
「う、うぐわあああ!」
珍しく父が大声を上げ、そして壁の方に吹き飛んでいくではないか
───は?
何が起きているのかさっぱりわからなかった。
「ごほっ、ごほっ・・・雷の魔術で自己強化すればそうなる。ただし負荷がかかるため短時間しかその魔術は扱えぬ。お、覚えておくことだ」
そう言いながら口元の血を拭って立ち上がる父。
「と、言われても何が起きたのか」
そう言いながら自分も立ち上がって口元の血を拭った。
「詳しいことは分からないが、脳の電気信号を操ることで自己にかけられている制限を一時的に外すことが出来る。通常人間は本来持っている力の三割も出せないそうだが、雷の魔術でその制限を外せば最大限持っている力を発揮出来る、と言われた。正しいかは知らぬが、どうだ?」
「どうだ、と言われましても。ただ、父さんが珍しく棒立ちだったくらいでそれ以外・・・」
「俺が棒立ちになるとでも。お前が単に高速で動いていたと考えられないか?」
そう言われなんとなくこの魔術が分かってきた。
制限を外す、とはそういうことか。
「あらゆる感覚を最大限に活用することで初めて出来る世界。雷は言わば自己完結の世界。極めるには己自身で力を磨くしかない。そしてこの雷の魔術耐性を持つものは極めて少ない。自分もまた例外ではない。先程防げなかった通りな」
───そんな
まさか父さんまで防げない魔術があるだなんて。
そう思っていると、父は苦笑し、
「これでも雷の魔術耐性は張ったつもりなんだがな。雷の魔術師はそのようなもの関係ないんだよな。その他に人を操る魔術、人の記憶を読む魔術なども雷の魔術として存在しているから覚えておくと良い」
「は、はい・・。けどまさかそんな魔術が存在するなんて。ひょっとしてこの魔術は無敵なんじゃ」
そういった所で手で制された。
「この魔術に頼るのはなるべくならよしておくことだ」
「何故ですか?」
「自己強化した後にくる苦しみに耐えられない。今はお前の魔力の方が限界に来たようだが、いずれ魔力以上に肉体に大きな被害をもたらすこととなる」
「は、はあ」
思わず気のない返事をしてしまっていた。無敵なのかと思えばそうでもないようだし、この魔術は一体何なのだろうか。
「切り札として用いる分には使用してもいいだろう。死ぬよりはましだからな。が、覚えておけ。時に死ぬことより苦しいこともあるということを。今日は訓練は以上とする。お前、思った以上に魔力を消費しているからな。鼻血、拭いておけよ」
そう言って父は静かに出ていった。どこか寂しそうな顔をしながら。
───と
気づけばぽたり、と鼻血が出ていた。魔力の使いすぎによる反動だ。
が、大して魔術らしき魔術なんて使っていない。まだ訓練したばかりだしまだ大丈夫だろうと雷の魔力を掌に込めた所で意識が途絶えた。
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