序章 エピローグ

ヴェルファリアとリリスが暴れまわった結果、交渉は簡単に終わった。全面的に協力してもらえることで承諾が得られたのだ。


「交渉が上手く言って良かったですね、ヴェル様」


帰路を歩きながらリリスが嬉しそうにそう言ってくる。


「そうだな、被害がもっと少なければ良かったが。帰ったらまずは水浴びして血を落とさねば」


ヴェルファリアが言うよう、お互いに血まみれであった。


「では久しぶりに一緒に水浴びしましょう。それがいいです」


「今は誰が見てるとも知れない。お前の出世に関わるから俺とは関わるな。別々に入るぞ」


リリスの提案をあっさりと退けるヴェルファリア。


「出世など興味はございません。あるのはヴェル様への忠誠心のみ」


「そうか、ならば命令だ。一人で水浴びすること。帰りに泉があったからそこで浴びて帰るとしようか」


「かしこまりました。ところでヴェル様、西の方は大丈夫でしょうか」


リリスが懸念を示したことに、ああ、と一言言い置いて、


「大丈夫だろう。焼いてるのは山ではなくて薪だからな。見せかけの火計だよあれは。獣耳族は煙を嫌う。風向きがどうと言っていたが煙幕さえ張れれば問題あるまい。明日に戻れば俺が指揮を取る。まあ、攻めてくるとは思えないが」


「そうでしたか。てっきり私は交渉が最初から上手く行かないことを見越して焼き払ったのかと」


そのリリスの言葉にヴェルファリアは苦笑して答えた。


「それはないよ。交渉は上手くいくと思っていたし、万が一のために急いで駆けつけただけのこと。全て偶然だ。走って良かったがな。馬より急いだから疲れたぞ」


リリスはその言葉に何故か嬉しくなったのだろう、明るい声で、


「そうでしたか。念のために私を助けに来てくれたのですね」


「まあ、そういうことになるな。お互い得物が良くて良かったな。そこらの槍なら折れていた。巨人族、あれはもう戦いたいとは思わないな、しかし。地割れで攻撃してきた時はどうしようかと思ったぞ」


「もう街も崩壊寸前ですね、自業自得ですが」


そのリリスの一言に、そうだな、と答え、ヴェルファリアはこう続けた。


「なかなか平和的に解決は出来ないのが世の常か。人間と魔族、隔たりなく仲良く出来ればそれでいいのだがな。今でこそこちらの武力が勝っているから彼らも従わざるを得なかっただけで、実際の所なんの解決もしていないことに、お前も気づいているだろう。結局、戦って最小限の犠牲を持って今に至るだけであって。遺恨も残っただろう。これで、よかったのだろうか」


そんなヴェルファリアの自問自答のような呟きに、リリスは


「結果論にすぎませんが、少なくとも私は助かりました。これでよかったかは、後世の者が評価するでしょう」


そのリリスの言葉にどこか安堵し、ヴェルファリアは答えた。


「そうだな。全ては後世の者が評価するだろう。今はこれでよかったのだと思おう。さあ、泉につくぞ。一休みだ」



───後世には、この出来事は、こう記されることとなる。


魔族軍の名将リリスの初陣、巨人族を単身調略す、と。


そこに一筆たりともヴェルファリアの名が出ることはなかった。


この物語は、後世の歴史家が残さなかった、ヴェルファリアと言う男の物語である。


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