末路
ヴェルファリアが単身南に乗り込んでいる頃、リリスもまた単身南に到着。交渉の机についていた。
交渉場所には巨人族も使うのであろう、大きな藁で作られた建物に呼ばれた。得物である黒い槍は交渉において必要ないだろうと言われ没収された。これに関しては致し方ない、とリリスは思っていた。
「さて、ご用件をお伺いしましょうか」
相手は小人族の老人だった。周りには巨人族が二人、どちらも屈強な体つきをしている。用心のため、というところか。
周囲のことを調べようと思ったが、その素振を見せては交渉になるまい。とにかく話を進めよう。そう思い、リリスは腰元から信書を出して老人に手渡した。
───が
「ふむ、何か書いてあるようですが読めませんな。申し訳ないが読んで頂いてもよろしいか?」
どうやら文化が違うようで文章が読めないようだったので信書を改めて受取り、内容を読み上げることにした。
「西の獣耳族との縁を絶ち、魔族軍と手を結ぼう。貴方方が欲しがっているのはアップルであろうからアップルは与えられるだけ提供する準備がある。なお、従わぬ場合には獣耳族もろとも滅ぼすつもりである・・・とのことです」
当然、それを聞いた老人は怒った。
「なんですと!突然来たかと思えば、貴方方の軍門に下れと、そういうことですか!」
後ろの巨人族も身構えている。いつでも臨戦態勢といったところである。
しかしリリスは臆せず答える。
「その通りです。我々魔族軍に貴方方が加われば南の憂いは断ち切れ、山攻めに専念出来ます。いかがですか、悪い話ではありません。アップルは貴方方の物となるのですから」
しかし老人は嫌な笑みを浮かべてこう答える。
「そのようなもの、奪えばいいのです。今までだってそうしてきました。獣耳族は確かにアップルの分配で口論にはなります。しかし、貴方方に下るよりはいい。魔族軍は今まで私達に何をしてきましたか?我々の同胞はかなり殺されているのですよ」
どうやら前任者は相当手荒なことをしてきたようだ。魔族軍に対しては嫌悪しかしていないことが手にとってわかるようだった。
同時に得た情報も。やはり獣耳族と小人族は繋がっている。口論になるということは対話が可能となっていること。ヴェル様の考えはやはり当たっていたのだ、とリリスは内心ほっとしていた。
「貴方方のお怒りは分かるつもりです。ただ我々魔族軍も殺されていることはお忘れなく。また罪もない領民たちも。本来奪う奪わないだのの関係である方が異常なのです。こうして交渉の場を設け、しっかりと対話しお互いに与え与えられる関係こそ良好な関係と言えませんか?」
すると老人は大きなため息を付き、
「その問いはかなり長い月日を遡らねばなりませんな。魔族軍、彼らが突然やってこなければアップルはもとより、あそこの人間たちも我々の所有物となっていたのですよ」
その言葉にリリスは思わず唖然となった。
「貴方は、背中の羽を見る限り人間ではない。魔族なのでしょうね、生粋の。でしたら分かるでしょう?人間などそこらにいる豚と同じ。唯一違うのは彼らは生きるために生産というものを行えることだけです。それだけが唯一の取り柄なのです。そして私たちはそれを吸い取る立場にあったはず、そうでしょう?」
リリスは、魔族であって魔族ではない。種族としては完全に違うものだが、はっきりと分かることがある。彼らとは価値観が違いすぎて話にならない、と。
思わず手を力強く握りしめ、リリスは声を震わせながら答える。
「そう、でしょうか。人間たちは生きるために必死なのです。確かに彼らは弱い。だからといって奪われる立場にいていいわけでもない。まして、我々魔族がそれを当たり前に行っていた・・・?───冗談ではありません!」
彼らに正義はないのか。心はないのか。奪われる悲しみを知らないのか。様々な感情がリリスを駆け巡った。
そうして同時に、感情任せに力強く拳を机に振り下ろした時には遅かった。
机は粉々になり、真っ二つに割れていたのだから。
老人はそのリリスの様子に狼狽し、巨人族達に思わず叫んでいた。
「おい、この女を、早く八つ裂きにするんだ!殺せ!」
その声とともに巨人族がこちらに向かってきていた。巨体なのに思った以上に俊敏に動く、と思ったが
─────遅い
少なくともリリスにとっては。
そのままリリスは椅子から飛び上がり、巨人族に一気に蹴りかかった。
巨人族の一人にかかと落としを決めた所で、一人の巨人の顔が破裂した。そのまま胴体まで真っ二つにし、地面に足がめり込む。
意外と軽いな、とリリスが考えていると、
「なんだこの女!と、とめろぉ!」
老人がさらに叫ぶ。周囲もその異変に気づいたのか、どこからともなく巨人たちが集まってくるではないか。
その頃にはもう一人の巨人が後ろからリリスに掴みかかろうとするが、それをリリスは後ろ回し蹴りで顔面を蹴り飛ばしていた。巨人の顔が家の壁にあたり、果物が潰れるような嫌な音が同時にした。
「ば、化物」
老人が、その言葉を思わず言った。
───言ってしまった。
その瞬間リリスの体から黒い煙が立つのが誰からの目からみても明らかだった。
「そう、私は、化物です。よく言われるんですよ。魔族では、ないんですよ。よく刮目しなさい。そうして最後にもう一度交渉の机につくがいい!」
リリスがそう叫んだのと同時。巨人たちが一気にリリスを囲い込む。
───と
「おいじじい!北から物凄い速度で走ってくる男がいるぞ。黄金の槍を持っている!あれは金になるんじゃないの・・・ってどうした?」
小人の一人が監視をしていたのだろう。そして今状況が飲み込めない状況でこの場に入ってきたようだった。
「そう、ですか。全てお見通しですか。くくっ・・・あはははは!」
リリスが突然狂ったように笑い出す。
と、思ったらしばらくすると笑うのを突然止め、冷たい眼差しで老人を見下しながら、
「もう一度だけ問います。奪うということは、奪われる覚悟がある、ということ、ですね?」
そう冷たく言い放った。
老人は狼狽しきっていた。何が起こっているのかわからない、といったところだろう。
「うば、奪われる?我々が?奪われるわけがないだろう。巨人族は誰にもまけん!知恵は我々小人族の方が人間たちより遥かに上だ!魔族よりもな!その巨人族と小人族が力を合わせて負ける道理がどこにある!そうだ、負ける要素がどこにもないわ!全員でかかれ!この女をくびり殺すのだ!」
老人は自分が吐いた言葉に勇気づけられるようにリリスを指差して叫んだ。そうして巨人たちが一気にリリスに突っ込もうとした時、
「狼煙を上げろとは言ったがな!ちょっと早すぎやしませんかね、リリスさん!」
外からそんな間の抜けた声が聞こえたと同時。
黒い槍が声の聞こえた方から鋭く飛んできた。そしてリリスを囲っている巨人の一人の頭に深く突き刺さった。
「ヴェル様、西の方は?」
その槍を静かに抜いて構えるリリス。
「外を見てみろ。あの通りだ。焼いてきた」
声を発しているのはヴェルファリアであった。本来ここにいるはずのない人。
そして、遠くの方に煙が立っているのが見えている。
───交渉にならないことを承知の上で焼き払ったのですね。
そう思うとリリスは少し悲しくなった。自分の交渉が決裂する所まで分かっているとは。
「まあ、そう落ち込むな。で、ここの事はあまり考えてなかったんだがこいつら全員お前の退路を塞いでいるのか?」
ヴェルファリアが尋ねてくる。
「はい、そうです。まあ、そこの老人にもう一度交渉の願いをしたところですが」
「そうか、分かった。ならば交渉につくまで全員薙ぎ払って、それから交渉としようか。それともご老人、今から交渉する気はあるか」
外からの男の声に老人は、
「バカを言うな。巨人族は、負けないのだ!雄叫びを上げて応援を呼ぶのだ。全員でかかれば倒せないものなどありはしない!」
「───そうか、ならば決着をつけようじゃないか。リリス、俺に命令を」
「分かりました。これより先の道、交渉の道しかあらず。奪われる痛みを知らぬ者達にその怒りの鉄槌を下せ!その上で再び交渉の座についてもらう!」
リリスが漆黒の槍を振り回しながらそう叫んだ。
それと同時。
「かかれ!先に雑魚そうな男からだ!」
老人が巨人たちに怒鳴りつけ命令をする。
「ヴェル様!手加減などなさらぬよう!」
その老人の声に合わせるようリリスも叫んでいた。
「リリス、お前と同じにするな。最初から手加減など出来ない相手だよ、俺にとってはな」
そうヴェルファリアはいいながら突っ込んでくる巨人の顔面に黄金の槍を突き刺す。刺した瞬間にどういう原理か顔面がはじけ飛んで肉塊と化す。
「や、やれ。やれー!」
老人が叫んで家の端っこで縮み上がっている。
「雑魚とは言われたい放題だな、俺も。まあ、仕方ないか。リリスを見た後じゃあな。素手でやったのか?」
「冗談ではありません。蹴りです」
「やったのか。なら、こちらもいくか」
そう言うなり黄金の槍を巨人の一人に投げ、胴体に突き刺す。それと同時に地面を蹴り加速。槍を掴むなり、上に薙ぎ払って巨人の一人を倒し、
「リリスほどの力は持ち合わせてないから小細工を使いながら戦わせてもらう、今回魔族軍から赴任してきたヴェルファリアという。まあ、忘れていい名だ。お前はリリスという名のみ覚えておくが良い」
そう言って外からやってきているであろう巨人達をヴェルファリアは一撃で薙ぎ払っていく。
内側ではリリスが大暴れをし、次々と黒い槍で巨人達をやはり一撃で薙ぎ払っていく。そして時には蹴りで頭を蹴り飛ばし、家中が真っ赤になり周りに肉塊が転がっている中。
「さあ、最後の問いです。よく考えて答えなさい。降伏するか、死か。選びなさい」
リリスが家の端で震え上がる老人に槍を構え、冷たく言い放つのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます