火計と策謀と無謀

リリスが単身南に交渉に向かい出した頃、ヴェルファリアも動いていた。


領主ヴェラハルトに今回の話を伝え、領民を動かそうとしたのであった。だが、領主の方は心配そうに、


「本当に、大丈夫か?」


脇腹をさすりながら答えたものである。


「安心しろ、最悪の場合は領民は全員守る」


「と言われてもな・・・二百の兵で何が出来ると言うんだ?」


心配の源はそれだった。だが、それを一蹴するようにヴェルファリアは答える。


「その二百に敗れたお前は、どうなんだろうな。さて、話を戻そうか。山に火をつけるわけだが、アップルは燃やしたくない。ならば、焼いているように見せかける必要がある。で、いらない木材を領民に集めさせ、それに下から火をつけろ。煙を巻くだけでいい」


要は見せかけの火計を行うと言うのだ。だが、ヴェラハルトは反対だった。上手くいくはずがない。何故ならば、


「上手くいくわけがない。あの山から風が吹いてくることはあってもこちらから風が吹くことなどありえない」


「そうか、ならそれでいい。とにかく煙を出すんだ、盛大にな」


そう表情も変えず言うヴェルファリアに対し、ヴェラハルトは思わずこう尋ねずにはいられなかった。


「その意図するところは!」


「獣耳族は煙を嫌う。要は煙で壁を作れば良い。おそらく南の交渉は上手くいかないだろう。二百の兵は置いていくが、俺は一人リリスを助けにいかねばならぬ」


「あんた一人で何が出来るんだ!」


思わず怒鳴っていた。


「万が一のことを考えてミリアはここに配置していく。何、武力で負けることはない」


「答えになってないぞ、あんたが強いのはわかる。だが一人では何も出来ないだろうが」


だが、ヴェルファリアは首を横に振りこう答えるのみであった。


「さあ、どうだろうな。一人でなければ出来ないことも世の中にはあるんじゃないか。とにかくもう動かねば時間がないぞ。さあ、早く」


ヴェラハルトはそう言われると、すぐさま領民たちに薪を集めさせ盛大に火をつけた。これから祭りでも行うのか、というほどに盛大に。


その間にヴェルファリアも南への出発の準備をし、軽く食事を済ませた後ミリアを幕舎に呼んだ。


「ミリア、お前にはここの指揮を任せる。おそらく敵はこないだろうが偵察するものがいれば出来れば生け捕りに。最悪殺しても構わない」


と指示を出しミリアはそれに静かに頷き、


「確かに、任されました。煙を確認するには高いところが一番でしょうから。さて、山で狩りと参りましょうか」


ミリアの目が紅く光り鋭くなる。そして腰に下げた刀にそっと手を当てるのと同時に殺気がこちらにまで伝わってきた。


「頼んだぞ。領民の安全は最優先で。兵は存分に使ってくれ。守備陣形でいれば大丈夫だろう。では、俺は南に行く」


「分かりました、あまり無茶をならないでくださいね」


と、ミリアがくすりと笑いながら言う。この後のことを何も心配していないかのように。


「ああ。ではな」


そう一言告げて、ヴェルファリアは単身南に乗り込むのであった。

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