難攻不落

「・・・で」


ヴェルファリアは幕舎でリリスを呼びだしていた。ヴェルファリアもリリスもお互いに向き合い、机を挟んで立っている。机の上にはこの地方の地図。


「はい、地図を見ますに、こちらの山岳地帯には獣耳族が。山岳を行き交う種族でございます。山を行く人々を襲うので輸送も商売も成り立たないかと」


「だろうな、更にはこちらにとって不慣れな山となると。入った時点で迷宮に入るに等しい。突然の攻撃に混乱は必定か。つれて行ける人数も限られる。しまったな、大きく出すぎたか」


と、どこか嬉しそうにヴェルファリアは言う。それに対し、少し怪訝そうな顔でリリスは地図を見ながら、


「ヴェル様、またよからぬ事を考えていますね。どういたしますか?」


「ここから南の事も考えてみようか。西の山岳は、先制攻撃でなんとかしよう」


先制攻撃、出た言葉にぴくりとリリスがまゆをひそめる。


「先制攻撃、でございますか?」」


「ああ、彼らに交渉という手段があればまだ打つ手もあっただろうがな。山は全て焼き払う」


「───え」


「この山、確かに恩恵も多いのだろう。おそらくアップルが出来る理由もこの山なのだろう。だが、焼くぞ。出てきた獣耳族を全て排除する。平地に持ち込めば馬が生きる」


それに慌ててリリスが止めに入る。


「お、お待ちください。領民の反対はどう押し切られるおつもりですか。特産品は」


「どちらもは取れまい。この山、放置すれば俺達が挟み撃ちを受ける形となる。例えばこの南、南の平地には巨人族と小人族。こちらは言葉が通じるが、果たして交渉に応じるかな。応じれば、良しとしよう。山も焼く必要はあるまい。さて、リリス、お前ならどうする。焼き討ちか、交渉か」


「出来うるなら交渉かと」


当然といえば当然である。被害もなく全て丸く収まるのならそれで良いのだから。


「最小限の犠牲で済ませるという形をとりたいか。ならば南に交渉に行く必要があるな。南から攻められないようしつつ、小人族か巨人族を使い西を調略する。大体おかしいとは思わないか、いかにこの地方が平地で農地があるといえど、西と南が同時に攻めてくる事なく平和にやっていること」


「と、いいますと」


「例えば西と南に国があるとする。そこの東に我が軍、国。つまり三つ国があったとして、何故西と南だけ仲良く手を携えて東の国を攻めようとするんだ?ここがずっと疑問だった。おそらく西と南の中にいるんだな、言葉巧みにこの国を攻めようとする者が」


種族ではなく、一つの国としてとらえた場合、確かにその考えは理に叶っている。


「さて、ここで問題だ。その国をどう崩すか。その一、西の国を焼き払う準備をし、焼き払ったと同時に南を掃討する。当然奇襲が必要だろうな。あぶりだした交渉者を捕まえ拷問にかけるか、その二は南に交渉を行い攻める準備があることを伝えるか。時間はかかるが、こちらにするか。さあ、どうする?」


攻める準備を伝える事は、つまりこちらに攻める意思があることを伝えるも同然。だが・・・


「結果として、南が動き、西との交渉者が動けばあるいは」


「だろうな、さて、俺は西を焼く準備をする。リリス、悪いが南への交渉を頼む。速度が重要だ。交渉内容はここに記載しておいたから後で目を通しておいて欲しい。読んだ後は封を頼んだ」


そう言ってヴェルファリアは懐から信書を出すのであった。それを笑みで受けとるリリス。


「なんだヴェル様、最初から攻撃する意思などなかったのではありませんか」


「いや、交渉が失敗した場合すぐにも狼煙をあげて欲しい。何、必要なのは交渉に応じた者の首だけでいい。それと同時に俺は西の山を焼く。俺は、領民から恨まれることになるだろうな。それは非常に心苦しい事だ」


と、ため息交じりに答えるのであった。


「何を仰いますか、このリリスに交渉はお任せ下さい」


と、リリスが胸をとんと叩きながら言うのであった。


「分かった、任せよう。何度も言うが失敗した場合は即刻脱出を図れ。立ち塞がる者は全て薙ぎ払って構わない。お前の命の方が大事だからな」


「かしこまりました。必ずや生きて戻る事を誓いましょう」


「その言葉を聞きたかった。では、行くぞ」


そう言ってヴェルファリア、リリスの二人は幕舎を静かに出た。

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