交渉

一日とかからず終わった戦。槍で運ばれた領主ヴェラハルトは魔王軍の陣地で治療を受けていた。


ミリアと呼ばれていたその美しい女性に応急処置を施されながら、ヴェラハルトは考えていた。


私はどこで間違えたのだろうか、と。


そんなことを考えていると、今大丈夫か、と外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


少しやり取りがあった後、静かに入ってきた男がいる。


「ヴェル様、この男は運が良かったですね。傷は深いですがなんとか回復しそうですわ」


ミリアがそう呼びかける男、名前は・・・


「ヴェルファリアと言う、傷は、なるほど確かにまだ深そうだな。済まなかった、手加減をもう少しすればよかったな」


その言葉に頭に血が昇る。思わず


「殺せ!私は負けたのだ!」


だが、その言葉はヴェルファリアの手によって遮られる。


「よせ、せっかく生き残った命。もっと別の形で使えば良い。で、聞かせてもらおうか。赴任してすぐで事情がわからない、何故反乱など起こそうと思った」


その言葉に更にはらわたが煮えくり返りそうだが、わき腹が痛くてそれどころではない。


「いたた、お前たちが!魔族軍が重税を課すからこんなことに。我々の領土から取れる食料や財貨は乏しい。しかし、そのほとんどをお前たちは徴収していく。我々はそれに我慢ならず戦って勝ち取りたかったのだ」


「何を、勝ち取りたかったのだ?食料か、財貨か?」


心底疑問であると言わんばかりの態度であるが、負けた身分である。投げやりにこう答えた。


「自由だ、そして重税なく生きていけるようにしたかったのだ」


「そうか、自由が欲しかったのか。だが、自由とは時に厳しいものだ。お前たちが重税を払うには払うなりの理由があったはず、違うか?」


その言葉に言葉が詰まった。


ヴェルファリアは確信に迫ってくる。


「この領地、時折魔族が攻めてくるな。多種族で異文化交流とはいかないのだろう。で、我々が力を貸していた、そんなところか」


「・・・そうだ」


ぐうの音もでなかった。実際、魔族軍の力を借りねばならぬ場合もあったのだ。


「まあ、そういうことなら。微力ながらこのヴェルファリア、お前たちの力になろうではないか、安心するがいい」


「───は?」


「だから、それを解決すればよいのだろう?そして重税から免れたいと。自由が欲しいのだろう、だからそれを与えてやろうというのだ。ただし、我々にも条件がある」


「条件?なんだ、また重税か?」


「いや、ここの特産品のなんといったか」


「アップルか」


アップルとはこの領地特有の特産品である。木になる果物で、とても甘いのである。


「それだ、それと農作物の育成方法が知りたい。兵站維持が出来なくて困っていたんだ。毎回輸送に頼ると、これが高くついてな」


そう言ってヴェルファリアは手に丸い形を作る。どうやら金がかかるといいたいらしい。


「重税はお互い様。搾り取ってるのは魔族軍の魔術師部隊の連中だ。あいつらが潤うのは俺も気に食わない。それ故に自力で食料の確保がしたい。どうだろうか」


どうも何も、割のいい話ではないか。


「飲むも飲まぬもお前次第だが。もう一戦交えるもよし、それとも互いに力を合わせ連中に一泡吹かせるか、お前はどうしたい?」


ヴェラハルトの答えは決まっていた。


交渉は即座に決まった。重税より再戦より、よっぽどマシな食料提供に。


同時に賭けてみたくなったのだ。


一度は敗北したこの男、ヴェルファリアに。


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