初陣
ヴェラハルト対ヴェルファリア。
領主対魔王軍部隊長。
初陣対初陣。
どちらも初陣である。
戦場の広大な草原がゆらゆらと揺らめいていた。
それは風のせいであったのか、それとも人の熱気のせいであったのか。
ヴェラハルトは「正義は我らにあり、突撃!」そう叫び、全軍を一気に走らせた。
そうして自らも剣を持ち、馬を走らせる。その脳裏に敗北の二文字はなく。
対する魔王軍は静かに、だが確実にヴェラハルト軍との距離を詰めてきていた。
妙だ、相手との対峙が早すぎる。こちらの速度が早かったか、ヴェラハルトがそう思ったそのとき
「一点!突撃!」
敵大将と思われる黄金の槍を持った男が突然声を上げ物凄い速度で突撃してきたものであるからひとたまりもない。
突撃と叫ばれたその数秒後、黄金の槍はヴェラハルトのわき腹を貫き、そして持ち上げられた。
「───は・・・?」
空中に持ち上げられているヴェラハルトは何がどうなっているのか理解できなかった。だが次の瞬間理解する。敵大将の一声によって。
「お前たちの領主は討ち取った!このままおとなしく去れ!さもなくば皆殺しにするぞ!」
その声とともに先ほどまで軽快に足を運んでいた領民達の足がぴたりと止まった。そこに続けざまに女の声が聞こえてくる。
「私についてきなさい!突撃!私の刀に、断てぬものなしっ!一気に貫きますわよ!」
今度は物凄い速度で走ってきた女が妙な武器を持ち、領民を一人、また一人と流れるように斬り倒していく。
そこで初めて領民達が気づく。自分達が置かれている状況が。
一歩、また一歩と後ろに足が退いていく。そうして瓦解する、その前に更に女性の凛とした声が戦場に響き渡る。
「後衛、全軍突撃!敵など目もくれず私だけ追いかけてきなさい!」
漆黒に身を包んだ女が翼を広げながら馬上から叫び、更に足の止まった領民達に突撃してくるではないか。
「う、うわあああああああ」
そこで初めて領民達が声を上げ武器を捨て撤退していく。
自分達には勝ち目などないと、ここで初めて気づいたのだ。
その間にも魔王軍の突撃は続く。
勝負は一方的に、あっけなく終わりを告げた。
ろくに訓練を受けていない歩兵、民草は撤退し、領主は生け捕りとなった。
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