第4話 想区の真実

「ちょっと、なんなのよ!!」

 ヴィランの数は全く減る気配がなかった。

 どんなに倒しても、霧の中に投げ飛ばしても、すぐにまた霧からヴィランが現れる。

「クソッ!戦いづれぇ……」

 タオも、終わりが見えず、体力の配分に困っていた。

「ねぇ、今までどうしてたの……!?」

 エクスは、"さくら"に問いかけた。

『……』

 しかし、答えは返ってこなかった。

「新入りさん、きっと無駄です。とりあえず今は戦いと休憩に集中しましょう」

 シェインは、まるで普通の桜の木のように、ただただ花びらを散らすだけの"さくら"に、期待なんてするのをやめていた。

「……みなさん、そろそろマヒが解けます。休憩はおしまいです」

 今、一行は、ヴィランたちを全員麻痺の状態にし、休憩をとっているところだった。

「わかったわ。みんな、もう一度『みんなっ!』」

 レイナが"導きの栞"を手にし、3人にコネクトを促そうとしたとき、沈黙を貫いていた"さくら"の声が響いた。

『桜の下に集まって!!』

 突然の"さくら"の声に全員が驚き、シェインが文句を言おうと口を開く。

「何をいって…『お願い、早く!!』」

 しかし、"さくら"はその文句を最後まで言わせなかった。

「……シェイン、いくわよ」

 その声に、レイナは何を感じたのか。

 シェインの声をかけ、エクスやタオに目配せをする。

「……はいです」

 そして、一行は桜の樹の根元に集まった。

 すると――――――。

「……っ!?」

 桜の花びらが、樹を中心に舞う。

 そして、まるでドームのように、桜の樹を囲む。

「これは一体……?」

 エクスは、まるで世界を守る壁のようだと感じ、その花びらたちに目をみはる。

 そして、その花びらが花びらがパッと弾けた。

 くるくると樹を囲むように回っていた花びらたちは、重力にしたがい、ひらひらと落ちていく。

「……んな!?」

 タオは、目を疑った。

「何ですか、これは……」

 そして、それはシェイン、そしてレイナとエクスも同じだった。

「……世界が」

 レイナの目は揺れていた。

「縮んだ……?」

 エクスも、目前に広がる現実が信じられずにいた。

 ―――そう。その現実とは。

 一行が信じがたく感じた現実とは。

 ―――そう、それは今までヴィランたちがはびこり、ずっと戦ってきた場所が、霧にのまれていたのだ。



「ちょっと!これはどーゆうことよ!?」

 レイナは声をはりあげた。

『ごめんなさい。これは、もう止められない運命なの。この想区は既に滅んでいる・・・・・。……はじめに言うべきだったね』

 その声は真実を物語っている。

 そう信じるしかない現実が、今起こったばかりだった。

「……どういうことか、1から説明してもらえるかしら」

 レイナは、全てを知りたいと思った。

 なぜ、そんなことになっているのか。

『うん、いいよ。この世界が存在できている限り……この世界に来てくれたみんなに。私は全部話したい』

 そうして、"さくら"は語りはじめた。

 この想区に訪れた"混沌"と、その末路を。





 とある世界、それは"春の箱庭セカイ"、"夏の箱庭セカイ"、"秋の箱庭セカイ"、"冬の箱庭セカイ"の4つに区切られた世界だった。

 東に位置する春の世界。

 西に位置する秋の世界。

 南に位置する夏の世界。

 そして、北に位置する冬の世界。

 さらに、その4つの世界の中心に神ノ島と呼ばれる世界ー領域ーがあった。

 各世界にはそれぞれ霊獣と呼ばれる存在がいた。

 春の世界には青龍。

 秋の世界には白虎。

 夏の世界には朱雀。

 冬の世界には玄武。

 また、霊獣の更に上位、神と呼ばれる存在もあった。

 春の世界には応龍。

 秋の世界には麒麟。

 夏の世界には鳳凰。

 冬の世界には霊亀。

 また、神ノ島には、全てを統べる者、"黄龍"がいた。

 世界を"箱庭はこにわ"と表現し出したのは誰だったのか。

 そんな記録はどこにも残っていない。

 しかし、その世界は彼らのであり、まるで箱のように、海などで区切られていた。

 そんな世界で、混沌に取り憑かれたのはあろうことか黄龍だった。

 全てを統べる者の暴走。

 それを止めることは不可能に近かった。

 そうして、世界は壊れていった。

 まず、壊れたのは北の冬と南の夏。

 冬の世界は氷に閉ざされた。

 夏の世界は炎に包まれた。

 秋の世界は、度重なる地震や地割れなどによって、徐々に崩れ、霧にのまれた。

 そして、春の世界。

 春の世界はのどかな世界だった。暮らしやすく住み良い、いい世界だった。そこに訪れたのは川の氾濫。

 徐々に水にのまれていく春の世界。

 しかし、それは突如止まった。

 それは希望ではなかった。

 それはむしろ、絶望で。

 世界が本当の意味で終焉を迎えたのだ。


 四神や四獣たちは言葉の通り死力を尽くした。

 そして、黄龍をほうむった。


 しかし、四神も四獣もいない世界。

 中心であった神ノ島も、三つの世界も無くなってしまった世界。

 神がいない世界に訪れるのは再生ではなく終焉だった。

 残ったのは、春の世界のごくごく一部。

 生き残ったのは、春の世界の中心に君臨する桜の大樹に住んでいた妖精。

 しかし、平和は帰ってこなかった。

 生きている妖精を襲ったのは、次の脅威。

 世界の端々から、よくないものが入ってきて、世界を壊そうとしている。

 そして、妖精は誓った。

 力の限り世界を護り、最後は世界とともに散る、と。


 いつのまにか、自分の名前なんて忘れてしまった。

 でも、親友がいたことは覚えている。

 秋の世界の紅秋べにあき

 夏の世界の海夏みか

 冬の世界の雪冬ゆきふゆ

 きっと再会できたら、みんな私の名前を呼んでくれるから。名前を忘れていても大丈夫。

 私は、頑張れる。

 世界とともに散るときまで。

 そして親友なかまたちに自慢するんだ。

『最期まで世界を護り続けたよ』って。

 そして、本来の運命にあったように。

 ずっとずっと幸せに遊び続けるんだ。

 それぞれの世界を楽しむことはきっとできないけれど。

 それでも、四神様や四獣様と一緒にみんなと……




 世界が壊れはじめたあの日から、一体どれだけ経ったのか。

 妖精は、桜を司る妖精だった。

 黒い敵が来ても、花びらを利用して戦い続けた。

 はじめは桜の枝を花びらで削り、木刀を用意して戦った。

 敵の数が増えれば桜の樹まで下がり、花びらの力を借りた。

 右手に木刀をもち、左手で桜を操る。

 世界が徐々に狭くなっていく中、妖精は舞い踊る。

 そして、体力を回復するために何度も樹と同化し、休憩をする。

 休憩をすれば、桜を操る力は回復したが、何故か体力の回復は芳しくなく、いつからか実体化はせず行動し、攻撃は全て桜を介すようになった。

 桜と同化する中で、気づいた。

 世界が狭いほうが護りやすい、ということに。

 そして、桜と同化している中で『ここから見渡せるくらい狭かったらもう少し楽なのに』と思ったとき。世界は一気に霧に包まれた。

 しかし、代わりに桜の樹が元気になったように感じた。

 散りゆく花びらは、地面につくといつのまにか、消える。そして、花びらは常に散り続けているのに常に満開の状態のままの桜の樹。

 それはこの世界の神秘。

 ―――もしかしたら、全て繋がっていて、1つの存在だったのかも。

 妖精は、徐々に世界を狭めつつ、戦い続けた。

 そして、力に限界を感じはじめた頃、現れたのだ。

 不思議な人間四人組。

 楽しそうな雰囲気。

 この世界で久しぶりに繰り広げられた"のどかな日常風景"のようなもの。

 まずは、桜に登る青年に声をかける。

 けれど、ちょっと怖そうなお兄さんだった。

 次に声をかけたのは、桜の樹の根元に腰をおろして、そのままうたた寝……というか、普通に眠っていた少女。

 でも、どうしてだろう。なんとなく、ちょっぴりからかいたくなって。

 "寝てたじゃない。うたた寝、気持ち良さそうだったよ"なんて、ちょっと意地悪な言葉をかけちゃった。

 でも、久しぶりに心が楽しくなってきて。

 残りの二人にも声をかけた。

 花見をしようなんていいながら武器の手入れをはじめた少女。

 "きれい"っていったら、嬉しそうな顔をして、私のことを"新入りさん"と呼んだ。

 なんだか、いつの間にか仲間になれていたみたいだと思ったけれど、そのあとに続いた"ようやく"という言葉に、少しだけ悩んだ。

 けど、とりあえず肯定して、"とても美しい"と言ったら、少女はさらに嬉しそうな顔になり、後ろを見た。

 そして、辺りを見回し、まだ声をかけていない少年の方を見て首を傾けた。

(あ、やっぱり、"新入りさん"は私じゃなかったんだ……)

 私は、最後の1人に声をかけた。

 その少年は、ここに来て誰よりも一番楽しそうにはしゃいでいた。

 この人間ひとたちはだれも、自分達以外の存在がいるなんて思ってくれないみたいだと思ったから、何も気にせず"お兄ちゃん"って呼んだら、この人は違くて。

 "君はだれ?"って。

 初めて私がいることに気づいてもらえたのが嬉しくて、楽しくて。笑っていたら、また、あいつらが来た。

 あぁ、今度こそ、終わりなんだ。

 この人たちは、霧の外から来たんだから、自力で無事に帰れるよね。

 ……そう思っていたのに。

 彼らは"帰る"ではなく"戦う"という行動をとった。

 姿を別人のように変える人間たち。

 明らかに人ではない者に姿を変えたりもしている。

 そして、彼らを倒した。

 でも、一匹だけ桜に向かうヤツが残ってて。

 攻撃しなきゃって思ったけど、すぐに反応できなかった。

 そうしたら、私が"お兄ちゃん"と呼んだあの少年が、攻撃して桜の樹への攻撃を止めてくれた。

 敵の位置は桜の樹にとても近い。この距離ならあまり力を使わなくても倒せそう。

 私は力を込めた。花びらを操るための力。

 大した消耗もなく、倒すことができた。

 私はそれに、安堵した。

 次……つまり、今回のこの襲撃が、この世界の最期になるかもしれないと思っていたから。

 今、四人組はようやく全員で私の存在ことを考えてくれている。

 それがとても嬉しくて。

 なのに、急に幻聴扱いされて。

 だんだん悲しさがもっと別の黒い感情に支配されて……

 ふと、謝られていることに気づき、耳を傾けた。

 そして、だんだん自分の心を支配していた黒い感情がなくなってきて、とても大変なことをしていたのだと気付いた。

 でも、代わりに悲しさが込み上げてくる。

 また無視されたらどうしようって思ったけど、武器の手入れをしていたあの少女が、もうしないって言ってくれた。

 なのにまた現れる黒い敵。

 お願いしたら、ちゃんと全部倒してくれた人間たち。

 姿を実体化する力は残ってないから、桜の花びらで人間のような形を表現してみた。

 そのあと、名前を聞かれて少し困ったけれど……とりあえず"さくら"と名乗って。



 突然の"来訪者イレギュラー"。

 "この想区ワタシ"に最後のチャンスが舞い降りた。

 この来訪者たちに、春の箱庭の象徴このサクラの姿を思い出として記憶に焼き付けてもらおう。

 そして、この世界が崩壊しきって消滅しても、彼らの中で在り続けるんだ。

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