第3話 実体なき姿

「……さて、ヴィランは追い払えましたね」

 シェインは、コネクトを解除してすぐ、"声"に話しかけた。

 辺りを見回しても、ヴィランの姿はどこにもない。

「あなたのことを教えてください」

 シェインの言葉に、返事はなかった。

「……」

 シェインはただただ返事を待った。

 しかし、返事が返ってくる気配はない。

「……おい」

 すると、タオが怒りのにじむ声を発した。

「タオ、やめなさい」

 レイナがタオをなだめたその時、桜の花びらの舞う動きに変化が現れた。

「あっ……」

 その花びらは徐々に集まり人型を形成した。

『話す相手の姿がないのは、なんだかおかしな感じがするでしょ?』

 その声は、その花びらの集合体ひとがたから響いた。

「「「「………………」」」」

 一行は、目の前で起こった現象に絶句するのだった。



 ―――マジで桜が本体だったのか!?

 ―――まじですか……

 ―――冗談よね?

 ―――もしかして、僕がさっき話してたのは手のひらに捕まえた花びらなのかな?

 一行がそれぞれ心の内で様々な想いを抱く中、それ・・は話を再開した。

『さて、私の話をするね』

「……はい、お願いします」

 シェインは早々に頭を切り替え、会話に集中する。

『私の名前は………覚えてないんだけど』

 しかし、その"声"がもたらした言葉は、いきなり理解の域を越えた。

「?」

『まぁ、さくらとかでいいんじゃないかな』

 この時、誰もが思った。「そんなんでいいのか……!?」と。

『それで……あなたたちの名前も聞いていいかな?』

 "さくら"は一行に自己紹介を求める。

 一行もその求めに応じた。

「……シェインです」

「私はレイナよ」

「オレはタオってんだ」

「僕はエクス」

 四人が順番に名乗ると、"さくら"は満足したらしく、話を再開した。

『おっけー!んじゃ、話の続きするね』

 一行が生唾を飲む。やっと、聞きたかったことが聞ける……。

『私は、この世界で唯一の生き残り』

『それで、この世界は……あっ』

 話は始まったばかりだというのに、"さくら"は話を中断してしまった。

 しかし、一行はその原因を 直後に聞こえた声ですぐに理解した。

「クルルゥ……」

 それは、ヴィランの声。

 振り向くと、またヴィランが霧から攻め出でてきていた。

「またヴィランだ……」

 エクスが言うと、レイナはため息をつき、ヴィランを睨んだ。

「ほんとにしつこいわね」

 エクスは、再度ヒーローとコネクトし、近づいてくるヴィランに容赦のない一撃を浴びせる。

「……まずは、あいつらを追い払わねぇとな」

 レイナとタオもヒーローとコネクトしたエクスに続こうと、"運命の栞"を手に立ち上がる。

 そこに"さくら"の声が響いた。

『みんな、倒しちゃって!!』

 その声に、シェインは"さくら"を見た。

「桜さんは戦わないつもりですか?」

 シェインは、人名のようなイントネーションではなく、樹木としての桜のイントネーションで"さくら"を呼んだ。

『言ったでしょ。実体化する力も残ってないって。戦うのも結構きついんだから!』

「………そうですか」

 そういったシェインは明らかにイライラしていた。

 そのイライラは夜の鬼ヶ島に広がる闇の深淵に沈んでいるかのように静かなものだった。

 そしてレイナはそんなシェインから感じる黒い感情の気配に、シェインの意識をヴィランに向かわせなくては、と思い声をかけた。

「……シェイン、"さくら"のことは置いときなさい」

 レイナの言葉の意図を理解したのか、シェインは自分の心を落ち着かせるために深呼吸をした。

 息を吐くとき、シェインは目をつむった。

 そして、次に目を開けたとき、その瞳はいつものシェインの瞳だった。

「……姉御、ありがとうございます。ちょっと冷静になりました」

 そう言ったシェインは、"導きの栞"を手にする。

「……じゃあ、行くわよ」

「合点承知です」

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