第二夜 折り返せない電車

折角作ったってのに、あんたはこれを使わないのか?


わしはこれを作るのに没頭し過ぎて、いつの間にか愛する妻までも失った。もう頃合いなんだ。早く妻に会ってわびたいんだよ。


戻って奥さんに侘びればいいじゃないか?


まだそこまで戻る能力はない。


そうなのか。じゃあ遠慮なく使わせてもらうよ。


そうしなさい。だがいいかね、よく憶えておくんだ。時空移動が出来るのは一回限りだ。それ以上は人間の身体が耐えられん。一度使ったら、棄てるか、誰かに渡すかすることだ。わしとしては人の為に役立てる様に遣ってもらいたいがね。ほら見たまえ。トンネルが明るくなってきた。間もなく到着するぞ。さあ早く押すんだ!


急かすなよ。まだ心の準備ってもんが。


馬鹿もん!死ぬのに心の準備が出来てる者などそうおらん!死にたくなければ押すしかないのだぞ。


判った判ったよ。押せばいいんだろう押せば。有り難うな爺さん。世話になった。


文句の多い奴だ。いいから、早よう行きなさい。


ああそうするよ。じゃあな……カチリ。



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