弐
さて、鶏も起きだすころ、結城と藍は朝日の照る縁側で
まだうとうととまどろんでいた。
一足先に目の覚めた藍は、藍を見知らぬまま助けてくれた
男の顔をみながら
「人の世にも珍妙な奴はいるものだな。」
とつぶやいた。
それから里へ帰ろうとしたが、
昨日の戦火でほぼ焼失してしまった事を思い出した。
狼族と麓の人族は境界線を作り、それを超えない事を約束としていたのだが、
愚かにも人族のやつは我らが域に侵入してきたのだ。
約束を持ちかけたのは人族のほうだというのに。
「んーうぅ...」
気がつくと日はずいぶんと昇っていた。
結城は寝起きの頭のままふにゃりと藍に向けて微笑むと、
胡坐をかいていた藍の太ももへ頭を乗せて、また微睡みだした。
ゆっくりと流れる時の中で、藍もまた夢の中へと誘われていった。
戦の傷も癒えだすある暖かい日。
藍はいつしか結城のことを愛おしく思うようになっていた。
しかし、実は藍は人狼であった。
許されぬ愛に日々苦しくなるばかり。
ひとたびなってしまったら結城も人狼となってしまう。
もしこの先、人間の女と番いたいと思ってもそれはできないのだ。
”結城の人生を狂わせたくはない。”
愛しているが、故に思いを伝える事ができなかった。
そしてそのまま、日は流れていった。
満月が、やってきた。
――苦しいだけだ。そばにいるのに触れられないなど。
だんだんと理性は薄まり
結城を己のものにしてしまいたいという欲求は強くなる。
"傷つけたくない。"
その思いと欠片の理性でそばにある小さく光る藍色の花に
願いを込め藍は去っていった。
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