track 24-悪いのだけ全部
「『ワープアンドワープ』」
日向電工はそう呟き、地面に付けていた手に力を込める、EZFGの頭上から岩が落ち、その岩と入れ替わるように日向電工の姿が彼の頭上へと移動した。
「『プラスチックケージ』」
巨大な檻が出現し、EZFGと人質の元へと覆いかぶさる、しかしそれは一瞬で粉々に吹き飛ばされる、中から『サイバーサンダーサイダー』を使ったのだろう。
「ああ、みんなミクの楽曲ばかりだから上手く使えないな」
隣で暴走Pが残念そうに呟く、今回は巻き込み厳禁、眠らせたところでどうなるかも分からないからwowakaの『アンノウン・マザーグース』ですら使えない。
「奴が使っている異能は『magician's operation』だね、本来は異能を文字の塊にして崩す異能だったけど、何らかの要因、例えば強制的に眠らされたりとか、そういった何かで性質が変わったんじゃないかな、誰かの異能を操る異能に」
オワタPが隣に立った自分そっくりの影を消して得意げな顔をした、なるほど、あの研究所の中をうろついてた影は彼のものだったのか。
「何故分かるかって? 知り合いに解析が得意な有名Pがいたものでね、ちなみに彼が捕らえてるボカロPはlumoさん、あの時計みたいのが『musiClock』で、日向電工くんが近付いた時に出て来た光が『パーティクルパーティ』で、もう1つEZFGくんの思考を加速させている異能が『デンパラダイム』だね、範囲内の人間の考え方の枠組みを極限まで広げる異能だ……さて、僕の役目はこんなところかな?」
正直引くほど詳しく解析している、そしてそのまま準備運動をしている彼に猛烈に嫌な予感を覚えた。
「おい、念のため言っておくが俺はあの人質の救助に来たんだからな?」
「じゃあ頑張って」
その場でアルミのボトルから水を飲み干すオワタP、彼は少しニヤリとして「足が常識外れなレベルで速くなる」と呟いた。
その場から姿を消すオワタP、常識外れといったレベルではなかった。
「させるか」
「彼の邪魔をするな」
パンダヒーローの力を借りてオワタPの眼前に先回りする、同時に『ジベタトラベル』を使った日向電工も俺の隣に現れた。
「『ルミナステンプル』」
俺と日向電工の背後から強力な光が浴びせられる、動きを止めたオワタPに金属バットの一撃を叩き込んだ。
受け身を取り、少し痛いなといったジェスチャーを取ってみせるオワタP、俺は手加減しすぎたなと舌打ちをした。
「来るぞ」
日向電工の言葉を聞き俺は振り向きざまにバットを思い切り振る、飛んで来た『サイバーサンダーサイダー』のボトルがあらぬ方向に飛び、街を覆っていた壁にぶつかり爆ぜた。
「『ルスバンドライブ』」
日向電工の姿が光になって、辛うじて残っていた電線に閃光のように消えていった。
「早く……早く助けないと……じんさんを……ナユタン星人を……」
EZFGの焦った声が聞こえる、あの時別の連中に連れて行かれた味方たちの事だろう。
ガシャンと音がして日向電工の姿がEZFGの背後の瓦礫の山に現れる、再び彼の周囲に例の文字が浮かび上がった。
「『ブリキノダンス』」
彼の周囲にいくつかの鉄パイプや鉄筋が浮かぶ、瓦礫に混ざっていたものだ。
「傷付ける積もりは無い、少し身動きを取れなくさせて貰うだけだ」
ドスドスと音を立ててEZFGの周囲に鉄パイプや鉄筋を突き刺した、まるで『プラスチックケージ』とは別物の即席の檻のようだ。
「『スパークガールシンドローム』」
バチバチと音を立てて鉄パイプの檻に閃光が走り始める、しかしすぐにその中央から淡い光が発生し、即席の檻は溶かされてしまった。
「一瞬でも目眩しに成れば充分……『ムーンウォークフィーバー』」
EZFGの背後に薄く見えていたプレートのようなモノに少しノイズが走る、その隙を待っていたかの如くそこにさつき が てんこもりが飛び込んで行った。
「いっただきまーす!」
バリバリとディスクを割るような音を響かせ、カラフルな時計が形成していた空間が削り取られる、人質を助けるなら──
「今だ、wowaka!」
俺の掛け声に応じてwowakaが姿を現す、戦いを始めてからずっと『ずれていく』で身を潜めていたのだ。
空中に引かれる灰色のライン、それは一瞬で人質の元まで伸びていき、彼をEZFGから引き剥がした。
それを追うそぶりを見せるEZFGの目の前の地面にれるりりの『聖槍爆裂ボーイ』が突き刺さり、爆発する、いつもの威力の数倍はあるようだ。
「まったく、そこの嬢ちゃんにコピーさせるためだけに『sadistic. Music∞Factory』を出すことになるなんてね」
「僕だって完全にサポートに回ることになるなんて思わなかったよ、そんで『ニトロベンゼン』にこんな力があったとか知らなかったなぁ、やっぱ異能って面白いや」
「コピーじゃない! オリジナリティだよ!」と騒ぐさつき が てんこもりを無視しながら暴走Pは話を続けた。
「がるなんが『架空の有名P』でやってみせた解析、実は彼らだけじゃなくて君たち全員にもやったんだ、だから君たちの異能は余すところなく把握している」
言いたいことはいくつかあったが、そんな場合ではなかった、爆煙の中からいくつもの糸が伸びているのが見える、奴はまだ動けるようだ。
「助かったよ、アイツを倒すんだろ? 手伝わせてよ」
『ラインアート』から解放されたlumoさんが俺の元へと駆け寄って来る、側にいたさつき が てんこもりが目を輝かせながらこっちを見た。
「8人になった! これで本当のハチレンジャーだね!」
「は?」と声を挙げたのは俺とlumoさんだけだった、wowakaは諦めの表情をしていて、日向電工はなんとも思っていない顔をしている。
「へぇ、ハチレンジャーか、いつ僕はそれに加入してたの?」
オワタPが薄ら笑いを浮かべてこっちを見る、非常に面倒なことになった。
「どっちにしろ、8対1じゃ彼にも勝機は無いだろ、EZFGくん、ここらで降参してはどうだろうか、日向電工くんにこの状況を元に戻して貰わないと帰ることもできやしない」
暴走PがEZFGに語りかける、晴れ始めた爆煙の奥で、薄気味悪く笑うEZFGの姿が確認できた。
「8対1? 何の事やら……」
彼の周囲にいくつもの気泡が現れる、同時に現れたボトルが、まるで内側から空気を入れたかのようにパンパンに膨らみ始めた。
「世界はもう動き始めた、これからは、俺たち異能者の時代だ」
彼の両隣に、いつだったかwowakaが言っていた「ただのCo」ともう一人、知らない男が現れた。
「さぁ、第2ラウンドだ」
* * * * *
──異能力科学再現研究所戦から2時間後……
「やっと目覚めたか」
意識を取り戻した俺の前で、DECOさんが笑った。
「俺たちwowakaさんのあの謎の異能のせいで全員ブッ倒れたんだけどな、その直前に40くんがキリトリセンを使ってくれていて無事に帰ってこれたんだ、まったくすげぇ判断力だ」
「そんな大した事じゃないよ、もともとあのタイミングで撤退するつもりだったんだし」
40mPが缶コーヒーをDECOさんに投げて渡した、受け取ったカフェラテとブラックコーヒーからブラックコーヒーを俺に渡して来た。
「あのヘッドギアの男は助からなかったみたいだね、まぁあんな強力な薬物を使っていたんだ、本来使えない異能を無理やり使ってたら、そりゃあ身体も保たないだろうね、僕が意識を失う直前に見た時は既に身体がグチャグチャになり始めていたよ」
想像したくもなかった、というか、俺も少し見ていた。
「さて、これからのことについて話そう、実は少し面倒な事が起こりそうなんだ」
40mPが真剣な表情で俺の前に座った。
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日向電工
異能
5-プラスチックケージ:対象に向けて巨大な檻を落とす異能、プラスチックと言っているが強度は鋼を遥かに凌駕する。
6-ルミナステンプル:輝く寺院を召喚して相手の目を眩ませる異能、ただそれだけ。
7-ルスバンドライブ:電気そのものとなって電線などの中を高速移動することができる異能。
8-ブリキノダンス:周囲の金属を自在に操る異能、発動時に自分を中心に半径3m以内にあった金属は全て対象になる。
9-ムーンウォークフィーバー:相手の「思考」に関する異能を操作不能にする異能、他の異能を使うための足がかりのような役割もある。
lumo
特徴的な電子音を使ったスタイルが得意なボカロP。
異能
1-musiClock:周囲半径1mの時間を自在に操る異能、時計から流れる電子音が認識できるモノのみに有効。
2-パーティクルパーティ:周囲に光のパーティクル(粒子)を出現させる異能、パーティクルの色によって様々な効果を発動できる。
3-デンパラダイム-発動すると自己の思考の枠組み(パラダイム)が活性化される異能、ただしあまりにも多くの事を考えすぎると逆に思考が遅くなるため自己の限界を知らずに使うと危険。
オワタP
異能
7-ニトロベンゼン:他者の「爆発」を用いた異能の爆発力を引き上げる異能、単体では意味が無いため本人も使い道を知らなかった。
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