第6話 カスタード≧チョコレート
それから2週間が経った。微笑みかけたきた可愛い店員さんにきゅんきゅんしたが、付き合えるはずもなく、ごく普通の日々を過ごしていた。
今日も残業だ。もう21時をすぎた。明日に迫ったイベントの準備のせいだ。イベント会場の設営が長引き、最終点検が始まったのが終業時間。打ち合わせが先程終わった。
あぁ、お腹がすいたけれど、これから家に帰って作るのも……
「田中さん、ごはん行きません?」
佐藤が言い出したらしい。佐藤の隣には、
その荒井さんが声をかけてくれた。
「行きます。」
自分は、即答した。その瞬間の御姐様の不敵な笑みが自分を捉えた。これは凍りつかないわけがない。
「俺がオススメの店でもいいですか? みなさんは食べられないものありますか?」
と、いうわけで、佐藤オススメのバルの雰囲気を持つスペイン料理屋に入った。タパスやピンチョス、パエリアなど。それにデザートのナティージャス。カスタードクリームのデザートだ。
「……さん……田中さん……田中さん。着きますよ。」
「……ん……………」
肩を叩かれる感覚とちょうどいい囁きが聞こえた。
「起きてください。田中さん。」
目を開けてから今の状況を認識するまで、たっぷり5秒かかった。
タクシーの中で、佐藤と後部座席に乗り、自分の頭は50度左に倒れていて、その頭の左側を支えてくれるモノがある。
すなわち、自分は佐藤の肩に頭を乗せているのだ。そして、佐藤の右手が自分の右肩を叩いている。
「ごめんなさい。寝ちゃった……?」
「いや、俺が悪いんです。田中さんがむせた時に間違えて白ワイン渡してしまいました。」
思い出した。辛いアヒージョを一口食べたら、熱い辛いの二重苦で、熱さと辛さが喉に刺さってむせてしまった。その時に水を飲んだと思っていたのだが、白ワインだったのか。その後の記憶がない。
「本当にすみません。」
「大丈夫です。そんなに謝らないでください。ぃたっ……」
頭を下げる佐藤に、両手を上げて頭を横に振ったら、後頭部に鈍い痛みを感じた。外傷ではない痛み。きっとワインのせいだ。
「着きましたよ。」
運転手が車を停めて振り向きながら伝えてきた。ここは……??
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