第5話 恋≧恋愛

 ◆先輩との恋を始めますか?

 ➡︎いいえ




 先輩の左手には、銀色の一本線が輝いていた。いつもモテていた先輩が結婚したのは、去年だった。お相手は、高校時代からの恋人。誰もその方に勝てなかった。


 先輩は、先に席に着いていた奥様らしき人の元へ行ってしまった。


 さて、ハンバーグを食べますか。







 それから1ヶ月後。


 秋の人事異動で、同僚が異動した。その代わりに、次期幹部と称される33歳のイケメンエリートが異動してきた。

 次期幹部などと称されるほどだから、ナルシシストで高飛車な人物だと思い、仕事以外の用事では近づかないようにしていた。

 だが、近づかなければならない日があったのだ。それは、

「みなさん、グラスをお持ちください。佐藤くんの我がチームへの加入を祝して!」

 課長の発声とともに、乾杯が行われた。部署の歓送迎会は用事を理由に断ることができたが、仕事のチームの歓送迎会は強制的に参加させられた。

「田中さんも、異動されてきたんですね。」

 気がついたら、佐藤が隣の席にいた。

「4月に異動してきました。」

「田中さんは、こういう場は苦手ですか? だったら、無理しないでください。俺がなんとかしますから。」

 唐揚げととんぺい焼きの乗ったお皿を渡された。

「苦手なものがあったら言ってください。」

 営業スマイルだと思いたい。というより、年齢もキャリアも下の自分に敬語を使わないでほしい。と言いたいが、言い出せない。あ、お礼も言ってないし。落ち込みながら、唐揚げを一口食べた。

 思わず目を見開くほどの美味しさだ。

「美味しいですよね、この唐揚げ」

 佐藤が人懐っこい笑顔を見せた。

「佐藤くんが美味しいって言うなら確かだな。唐揚げ、追加しようか。」

「あ、自分が注文します。課長、お飲み物はどうされますか?」

「田中くんは気がきくなぁ。唐揚げと言ったら?」

「ハイボール、ですか?」

 誰に対しても“くん”付けで呼ぶ課長は、上機嫌になった。ということは、唐揚げにはハイボールなんですね。わかりました。

 先程のお返しの意味も込めて、佐藤に話しかけ、注文をゲットする。

「この唐揚げ、美味しいですね。2つ追加で。あと、ハイボール2つとウーロン茶を。」

「ありがとうございます。唐揚げは、自慢の一品なんです。」

 店員の可愛いお姉さんに微笑みかけられた。

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