妄想

 南署の林という署長から、ショップにいる苺に電話があった。

「雨宮しろさんをご存知ですか」

 アマミヤシロアマミヤシロアマミヤシロ。シロって犬? と思い、猫のことだと思いついた。

「今日お仕事が終わってから来てもらえないでしょうか。雨宮さんのことでお訊きしたいことがあります」

「嫌です」

 苺はふざけて言った。そんなに嫌ではなかったけれど、ナイたんが部屋で待っててくれてるかも知れないじゃん。

「ではお仕事が終わる頃、車を迎えにやりますので来てもらえますか」

 もらえますかって。本当は、来いって言いたいんだろうな。お前が来い! とは言えないなー。

「まあいいや。九時半に迎えに来てください。車ってパトカー?」

「そうです。乗るのが嫌なら来てもらいたいのですが」

「全然嫌じゃないです」


 南署は南区にあった。当たり前か。苺の実家の管轄は伊勢佐木署だ。猫の家が南区だった。飲酒運転追放! と書かれた大きな提灯が入り口にあって、かっこいいなーと眺めていたら迎えに来た二人の刑事? に置いて行かれた。警官? 警察官? おまわりさん? 本官?

「雨宮さんとお付き合いされているんですよね。最近はいつ会われましたか」

「何日も会ってません。てか付き合ってません」

「これはあなたの名前と住所で間違いありませんか」

 警察の署長ってもっと年寄りで、取り調べみたいなことはしないんだと思ってた。てっか! やっぱりあの文章は猫が書いたのか。と苺は見覚えのある封筒を手に取った。それはビニール袋に入っている。

「開けないで下さい」

「何で? あたし宛じゃん」

 もう丁寧に話すのも面倒くさくなってきた。

「内容はお見せできませんが、遺書の可能性があります」

「同じ封筒が二回届いたけど、それは読ませないよ。……アマミヤサンは頭がおかしいんじゃないかなー」

 本当はそう思えなかった。おかしいのはあたしだ。ビニール袋の中の封筒に書かれた差出人の名前が自分の字に見えた。あの中のコピー用紙を読めないかな。猫のPCの中にワードファイルが残ってるんじゃないかな。猫の家。オーナーも消えちゃったし。カトルちゃんなら知ってるかな。苺は猫を探すことにした。


 カトルちゃんは猫の家を知っていた。さっすがストーカー! 一緒に早番で帰る日、苺はカトルに猫の家に連れて行かせた。猫のことで苺だけが警察に呼ばれたことが気に入らないらしいカトルは、それでも本気で猫の行き先を心配しているようだった。オーナーのことも心配してやれよ。そして南区のマンションに着いた。来損? だった。部屋番号と呼出ボタンを何回押しても応答がなかった。多分不在だ。猫の捜索願を出した父親がいる。不在でなければ、あたしたちみたいな来客を受け入れるはずだ、と苺は思った。猫がカトルちゃんに部屋番号を教えたのかな。カトルちゃんが本当にストーカーだったりしたら引くな。



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