第9話
「放っとけばいいじゃん」
「あんな奴、別にいてもいなくてもどうだっていい、っていうかいない方がいい。どうせこっちの暮らしに堪えられなくなって〈中〉に帰ったとかじゃないの。うちらの知ったことじゃないよ」
「本当にそうなら、僕も放っておいていいと思うけど」
「夜中に襲われて、そのすぐ翌日に連絡もなしにいなくなったんだ。僕らに敵対する存在を想定しないわけにはいかないな」
「ちょっと待て、その襲われたってのはなんだ。初耳だぞ」
「刃物を持った二人組の子達が姫花の部屋に押し入ったんだ」
「馬鹿野郎、どうしてそれを最初に言わない。で、そいつらはどうした。殺しちゃいないんだろう?
「どこかに行った」
「どこかにって、お前……」
奈津は呆れたようだった。改めて文句を言う気にもならないという顔つきをする。乃木は薄く笑うと、卓から足を下ろした。
「まさか九留が取り逃がすなんてね。そんなに手強い奴らだったわけ?」
「僕の対応がまずかったんだ。それで
「もし
西地区副長の
葉仁はこの場では奈津と並ぶ最年長の十九歳で、華奢な見た目通りの頭脳労働要員である。普段は公務部の実務を主に取り仕切っている。
「今は大雑把な推測しかできない。第一に、僕達と同じ子供だった。第二に、僕の知らない子達だった。ということは」
「区外の緩衝域の子供の可能性が高い、ということですね。入砂の他地区なのか、他郷、
「だから当面はこちらから積極的に行動に出るようなことはしない。というより、できない。せいぜい見廻りを強化するぐらいだね。奈津、乃木、外部の人と姫花の姿に注意を払うよう挺身部のみんなに徹底させて。姫花の写真は僕の方で用意しておく」
「もし怪しい連中がいたら、やっちまってもいいのか?」
奈津の口調には明らかに期待する色があった。本気で殴れば素手でも人死にを出しかねない剛腕の持ち主だ。念のため九留は釘を刺す。
「話が聞けるぐらいには加減してよ。それと当り前だけど、大人は駄目だから。絶対に危害を加えないように」
「そのくらい分ってるさ」
「そんじゃさ、もし大人があの娘をぶち殺そうとしてる場面に出くわしたら、どうしたらいいわけ?」
茶化すような口ぶりのわりに、乃木の目は真剣だ。
「その時は」
しょうがないね、と九留は言った。それが大人を傷つけるのもやむを得ないという意味なのか、それとも姫花を見殺しにするということなのか、最後まで口にしなかった。
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