第8話

 信じられない。何を考えているんだろう。

 それとも、九留くるにとって私の気持ちなど考えるのにも値しないということか。

 朝食の後片付けを済ませてしまうと、特にやることもなかった。全く気は進まなかったものの、行くことを承知したのは事実だ。私は抑えきれない苛立ちを抱えながら公務所に向かった。

 庇ってほしいと言うつもりはない。引き止めてくれなくてもいい。依紗いさが怪我をしたのはやはり私のせいなのだろうし、だから出て行くのが正しい選択なのだと思う。

 それでも勝手にすればいいと突き放した直後に、平然と公務所へ来るよう要求する神経には、怒りを通り越して呆れてしまう。

 確かに私はもうひどく汚れてしまっていて、誰かに大切にしてもらう価値はない。

 けれどそれは九留だって同じはずだ。

 大人達のための道具となるために、緩衝域で生まれた子供。その彼に、私を蔑む権利はない。

 顔を合わせたらはっきりと言ってやろう。

 私とあなたには差などないと。

 だがその決意は果たせなかった。

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